鹿島美術研究 年報第11号
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⑬ 日本におけるカンディンスキーの受容に関する研究研究者:北海道立帯広美術館学芸員佐藤幸宏抽象絵画の創始者の一人ヴァシリー・カンディンスキー(1866-1944)が,20世紀美術の展開に与えた多大な影響についてはよく知られている。それらは,抽象絵画という造形芸術の分野にとどまるものではなく,彼の詩作品や芸術論によるダダイスムへの影讐バウハウスでの活動を通じての造形教育への影響など,かなり広範囲にわたっている。近年,日本においても大正期の新興芸術運動をはじめとする前衛芸術への関心の高まりとともに,それらに影聾を与えた西欧近代美術の受容の問題が次第に研究されつつあり,カンディンスキーについても邦語文献目録の作成や,恩地孝四郎など大正初期に抽象表現を試みた画家への影閻が指摘されている。しかしながら,包括的かつ詳細にその受容の問題を実証的に論じた研究はほとんどないのが現状である。カンディンスキーの作品や芸術論がヨーロッパに遅れることなく,きわめて早くから日本において盛んに紹介されていた事実を考えると,造形芸術のみならず,芸術学や美術批評,造形教育など,様々な分野に及ぼした影聾が予想される。本研究では,まず第一に,それらの問題の解明の基礎的研究としてカンディンスキーの作品や芸術論の紹介を歴史的に詳細に後付け,それに基づいて各領域における影聾関係を考察し,日本におけるカンディンスキー受容の全貌の解明を目指すものである。⑭ 中世後期の宗教絵画にみられる素朴様式の研究研究者:渋谷区立松濤美術館学芸員矢島14世紀から16世紀にかけての時期,主に庶民への勧進に使用する目的で制作された宗教絵画作品,すなわち絵巻や掛幅の社寺縁起絵(伝統的様式によるものは別として)・宗教的主題を扱ったお伽草子絵巻・参詣曼荼羅などの,素朴な絵画表現を特色とする作品群は,その拙い作画技術の故に,従来ともすれば美術史的考察の枠外におかれることが多かったように思われる。ようやく近年になって,それらの作品を,伝統的大和絵を評価する際の“優美さ”“繊細さ”といった価値基準とは異なった,“素新46

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