鹿島美術研究 年報第11号
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像における発生•発展の問題が課題となってくるわけであるが,中国,朝鮮,日本は,それぞれどのようにこの問題にかかわったのか,本調査研究は即ちその一部である。日本における誕生仏のイメージは,天平期作の,天地を指さす東大寺像によって代表されるが,これよりさらに古いと思われる正眼寺像が存在する。この正眼寺式像(仮称)の類例は,朝鮮にも確認できる。中国においては,釈迦の誕生にまつわる初期造像は,もっと多様にあったように思われるものの,かなり古い時期から同形式のものが造られていたと推定される。釈迦誕生像は多様な展開から正眼寺式に定着したのはいっ,どこにおいて,どのようなプロセスを経過したのか,そして,同じ形式でも,正眼寺像と東大寺像との間に認められる様式差は,どこにおいてその源を求めるべきか,その様式差の背後に何があるのかなどを考える時に,特に,大きな影聾力をもったと想定される隋唐期のこの種の造像遺品の欠如を抱える現状では,古代朝鮮の誕生仏の問題はさけて通れないように思われる。そして,中国に於ける釈迦仏誕生像の全体の流れを把握する上で不可欠の隋唐期造像の実態を復元する形で少しでも教えてくれる意味で,今度の調査研究に対する期待が大きい。⑲ 中世禅宗僧侶肖像彫刻の造像に関する研究研究者:文化庁文化財保護部美術工芸課文化財調査官根立研介「頂相彫刻」とも俗称される,禅宗僧侶の肖像彫刻は,鎌倉時代後半頃から数多く造像されているが,像主の風貌を写実的にとらえるだけではなく,彼等の個性までも表現するものも多く,わが国の肖像彫刻の中でも特異な位置を占めている。これらの肖像彫刻については,像主が請来開山等により,その没後かなり隔った時期に造像されたものを除き,その多くは像主の塔所に安置されることを前提として造像されたと考えられる。したがって,その制作は像主の没年を基準としてとらえることができるものの造像に関する明徴な資料を欠いているものがほとんどであり,さらには寿像の問題もあり,これら肖像彫刻の編年は必ずしも明確でない。また,これら肖像彫刻の特色である高い写実性は,これを表現する仏師たちが如何にして獲得したかは必ずしも明らかではなく,彫像の造形に多大な影響を与えたと想定される画像類,特に頂相画との関連も十分検討されているとは言い難い。_ 50 _

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