鹿島美術研究 年報第11号
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で,両者の間の密接な関係を実証できれば,山岳信仰の中心である吉野・熊野の美術の成立に,天台寺門派が果たした大きな役割を再認識させることができよう。また役行者像の調査の段階で,筆者はこれまでに彫像,絵画ともに従来より知られる最古の作例より更に古い現存遺品を確認しており,神山氏が指摘された行者像の成立時期についても傍証できるものと考えている。⑬ 江戸時代仏像彫刻の基礎的調査研究一七条仏師の作例を中心に一研究者:堺市博物館研究員江戸時代の仏像彫刻史研究は,従来まで研究対象としては,無視されてきた。近年各地で実施されている仏像彫刻悉皆調査においても在銘資料のデータを掲載するにとどまり,江戸時代における仏像彫刻の様式変遷やその様相を考察する動きには至っていない。本研究は,江戸時代仏像彫刻の様相を考察するために,その基礎的研究として,七条仏師の作品を機軸に,各地に残る作品の基礎的データの収集を行い,その様式変遷や七条仏師の系譜を把握することを目的としたい。七条仏師は慶派の流れを汲む仏師で幕府関係の造像に深く関わり,江戸時代仏像彫刻の特質を代表する作品を多数,制作している。また遺品には,紀年銘のものが多く基準作品を確定しやすい利点がある。この研究によって今日までまった<未着手であった「江戸時代」という仏教彫刻史の空白部を埋める多数のデータが得られるものと考えられる。また,各地域に多数所在しながらも日本美術史,日本仏教史の双方から看過され,研究対象とならなかった江戸時代仏像彫刻についても新たな研究方法を提示できると思われる。⑭ イタリア中部のロマネスク彫刻のイコノロジー的研究研究者:沖縄県立芸術大学専任講師尾形希和子私は一貫して,ロマネスク教会堂の彫刻モティーフの調査研究を行なってきたが,中でも一般的にファサードなどの重要な位置に置かれる明らかにキリスト教的なテー張洋一-53 -

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