鹿島美術研究 年報第11号
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た。このような状況の中で,まだまだ研究が進んでいるとはいえない男性の服飾品で,特異な分野を形成している資料の一群に室町時代後期から現れた服飾ー胴服・陣羽織・具足下着などーが挙げられる。この研究では現在のところ,丹野郁氏の著書「南蛮服飾の研究」や仙台市博物館において開催した「武将の装い」があるが,まだまだ端緒についたばかりである。これらの服飾は,身分規制上の一手段として用いられた衣服の中にあって,室町時代後期から現れた新しい服飾といえる。伝統を担わない分,さまざまな要素を盛り込むことが可能だったといえる。そこで,従来からの素材とともに,その頃我が国に渡来した外国人(主にヨーロッパ人)によってもたらされた新しい染織品や技術をその中に取り込むことになったと思われる。日本人の美意識を窺う上でもう一つのヒントを与えるものであり他にも様々な研究を行う上で貴重なデータを与え得ると思われるのである。このように興味深い分野でありながら,これまではあまり全面的な調査の手が加えられることが少なかったことは,我が国の服飾品・染織品の研究の上で残念なことであったといえる。これらの服飾品は他の我が国の小袖・能装束,それ以前のさまざまな服飾品に比較しても遜色のない,またそれらと異なる,もう一つの日本人のデザインカを示しているのである。そこでこれらの服飾品をこれからの研究の基礎にできるようなデータを調査したいと念顧していた次第である。⑲ 邪鬼の研究一畏怖・嫌悪の造形一研究者:東京国立博物館学芸部企画課普及室研究員浅漱本研究は①各民族固有の信仰に基く造形と邪鬼との関連性②邪鬼の造形に際し,そのイメージの基となったものの二点を解明することを目的とする。①では,固有信仰そのものの研究と並んで,美術史の見地から,固有信仰に基く異形,鬼神形の造形と,邪鬼の造形との関連性を探ることに主眼をおき,②では邪鬼の造形のモデルとなった,畏怖・嫌悪の念を抱かせるものについて解明することが目的である。毅-57-

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