鹿島美術研究 年報第11号
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につけ,その背景に風土が大きく影響しているのは明白と思われた。そのことは,バルセロナなどで表現活動を行った同時代の作家たちにもいえる。また,これらの地の風景や過去の作品は,そこを訪れた他国のシュルレアリストたちの目を捉え,精神の深奥に刻まれたことは,それら表現者たちの後の作品を見れば明らかだと思われる。1994年はシュルレアリスム宣言が発表されて70年目にあたる。そのような状況で,パリ以外の地のシュルレアリスムの研究は少しずつ進展してきている。スペインに関奪しても同様である。こうした地方性の問題を調べることはシュルレアリスム研究の新たな展開をもたらしていくと考えられる。それはまた,日本のシュルレアリスムの受容と発展の問題にまでつながるであろう。⑫ 鎌倉期における阿弥陀像造立の一考察一重源・法然を中心に一研究者:滋賀県立琵琶湖文化館学芸員土井通弘浄土教美術の研究は,美術史のみならず,わが国の思想史を探ることである。仏教およびその美術は,伝播以来わが国の先人によって,風土や文化的土壌に即して,改変展開されてきたものであるが,中でも浄土信仰は死生観を根幹に捉えた宗教活動であったが故に,わが国の社会・文化・思想の各方面から影響を受け,またそれを強く規定したものであったと言える。特に平安後期から鎌倉期へ展開する浄土信仰は貴族層から民衆へとその裾野を広げるわけだが,社会の大きな変革期にあって,民衆が浄土に何を期待したか,そして彼らの信仰の内実は何であったかは興味深い問題である。以上の宗教活動の中で生み出される美術作品が浄土信仰という宗教活動の結果と位置付け得るとするならば個々の作品の評価やその社会的背景を探ることは,結果として当該期の浄土信仰を究明することになる。源信や法然,一遍といった宗祖の思想的展開にもちろん大きな影響を受けたであろうが,その教えを享受した人々が自分自身の礼拝の対象としてどのような作品を選択したかは重要な課題である。本研究では,仏教に本来的に内在する勧進という活動を通じて,大衆を宗教活動に結縁せしめた重源に着目し,鎌倉期の阿弥陀像の分析を通して,重源から法然へと展開する中世的浄土教の歴史的意義を考察するものである。59 -

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