⑬ 古窯址調査によるタイ陶磁の分類と編年研究者:福岡市美術館学芸員尾崎直人東南アジア地域に対する陶磁研究は,中国・朝鮮などに較べこれまで関心を払われることが少なく,しかも伝存する作品の造形的特徴に重きをおいた研究方法が中心であった。古窯址や出土遺物を対象とした広範囲にわたる現地調査を実行することにより,この分野の具体的かつ実証的な研究の基礎的条件を整備することができる。個々の点についてふれると,まず古窯址から出土する陶片資料は,伝存作品の製作地や年代の比定に欠かすことが出来ない基本資料であり,また作品の真贋や各種の技法を判断するうえでの根拠となる重要な資料である。陶片に関する綿密な調査研究は,陶磁器の科学的研究には不可欠の分野である。さらに,窯の分布や構造・規模あるいは各種の窯道具など,作品の周辺資料に関しては,それらの情報を収集・整理・分析することにより,製品の変遷過程や製作状況などを解明することが可能である。作品そのものの造形的特徴や変化だけでは判明しにくいことが,伴出する遺物や出土状況などの総合的状況により明確になることが少なくない。これら一次資料を対象とした調査活動のほかに,現地の研究者をさがして積極的な情報交換につとめることは,現地でなければ収集できない資料や最新の資料を得ることにつながり,また長期的観点からの研究活動のうえで重要なことである。なお美術史に直接関係するものではないが,タイを含むインドシナ半島の陶磁器は,最近になって各地の消費地などの遺跡調査がすすみ,発掘資料が充実するにつれ,貿易陶磁の観点からも注目を集めるようになってきている。すなわちその特徴的で耐久性のある資料的特質から,年代判定の基準としての意義や,各種の交流を代表する具体例として,考古学や文化史など他分野でも有効性が認められつつある。⑭ フランス革命期の寓意画研究者:郡山女子大学短期大学部専任講師齋藤美保子従来のフランス近代絵画史は,入れ替わり立ち替わり現われた巨匠たちの活躍を跡付けることに終始し,1789年以後の革命期に,無名の美術家たちが政治的需要に応じ_ 60 -
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