@ 前衛運動の継承関係一日本近代版画の場合en France du X ne au XVI0 Siecle, Paris, 1974)などに見られるように,文化史的には重要であるが,わが国ではほとんど目にすることのできないような膨大な数の作品を扱った研究が存在する。こうした研究状況の中で,いわば両者の方法を結ぶような形で,芸術的価値の高い作品を,結婚という大きな枠組みで切り結び,とらえ直すところに意義がある。「価値」個別の作品の図像研究や,個別の図像の通史的研究という,従来主流となっていた方法に代えて,図像をより大きな枠組みでとらえ直すことによって,研究のダイナミズムを生み出す可能性を模索する方法的価値を見い出すことができる。これはタイプの変遷と受容という美術史独自の形式上の問題にも大きく関わってくるものであり,作品成立の事情を考察する上でも寄与するところがあると思われる。「構想理由」本研究が構想されたのは,初期ネーデルラント絵画における祈念画および半身の祈念肖像画研究の過程においてである。世俗の個人の肖像画制作が広まり始めた地域の一つは,まさに本研究の対象領域においてであったが,その制作の契機は,個人の死と並んで結婚が圧倒的に大きな位置を占めている。このこと自体,すでに造形作品そのものが必然的に内包している世俗性を表わしているが,その現われ方は一様ではない。例えばロヒール・ファン・デル・ヴェイデンの半身の祈念肖像画ニ連板が,貴人との対面図の伝統をひきながら,明らかに夫妻の結婚肖像画の伝統に連なるところがあるのは,二つの異なるものの統合という根本的性格をもつ結婚が,聖と俗,すなわち神と人間との結びつきのあり方を示す様々な宗教的事象のメタファーとなり得たし,そのように理解されてきたことを物語る。したがって結婚という枠組での図像研究は,宗教画と共に世俗画,特に肖像画の領域を切り結ぶ契機となり,西洋絵画の大きな流れである世俗化の傾向を理解するうえで重要だと思われたのである。研究者:神奈川県立近代美術館学芸員水沢日本近代版画の歴史は,すでに多くの研究がおこなわれているが,そのほとんどが個別の作家研究を中心にしたものであり,「前衛」の問題を検討する対象として版画が研究されたことはなかった。しかし,その運動の性格もあって,「前衛」の作品の遺品はきわめてすくなく,すでにかなりその調査も進んでいるが,結局,村山知義の65 -勉
元のページ ../index.html#93