重要な研究テーマにとりくむための基礎作業として本研究を構想した。⑬ 東郷青児と阿部金剛一日本のシュルレアリスムの出発点研究者:茨城県近代美術館学芸員小泉この研究は,私の全体研究テーマに沿うものであり,日本のシュルレアリスムの発生についての一つの試論であると同時に,想像力による絵画が,日本にどのように生きづいていたのかを考える論考の一端である。今回のテーマとして提示した東郷青児と阿部金剛に関しては,方や,大いなる大衆性を獲得し,押しも押されもせぬ巨匠としてその生涯を閉じた東郷と,戦後も二科展などに出品していたものの,無名のまま死去した阿部という二人の画家が,日本のシュルレアリスムの始まりの時期に,深い意義を持つ二人展(昭和4年1月)を開催し,それが,同年9月の第16回二科展での,彼らに加えて古賀春江らによる画期的なシュルレアリスム絵画の登場への,大きな動因になっような過程で行なわれ,どの程度その後の日本のシュルレアリスムを方向づけたのか,またその後,彼ら自身シュルレアリスムから離れていった理由が何であったのかを跡付けて行きたい。⑭ フランティシェク・クプカの造形にみられるチェコ美術の役割研究者:愛知県美術館学芸貝古田浩俊チェコに生まれたクプカは,今世紀における抽象絵画の創始者のひとりであるが,カンディンスキーやモンドリアンに比べると,知名度もいまだに低く,正当な評価を受けるようになったのもここ20年くらいのことである。近年では,1923年にプラハで出版された芸術論『芸術における創造』が1989年に仏訳され,この同じ年から翌年にかけ,パリ市立美術館でこれまで最大の回顧展が開催された。そして現在,コタリークやムラデクの手によって書簡類の資料の刊行およびカタログ・レゾネの編集が進められている。かくしてクプカの全体像が次第に明らかにされつつあるところである。本研究の目的は,クプカが実際に目にしたと思われる個々の作例を詳細に調査することによって,チェコ美術の伝統がクプカの芸術形成にどのように関与したかを検証をふまえ,この二人展がどの-67
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