鹿島美術研究 年報第11号
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⑯ 江戸時代御用絵師成立の研究一正保国絵図に関して.....:研究者:大阪芸術大学教養課程教授田中敏雄近世絵画史を研究するものにとって,幕府の御用絵師や各地方の藩の御用絵師の組織を明らかにすることは重要な課題だと思われる。今回の研究ではテーマを絞って,特に正保期の国絵図の制作における絵師の登用について考察してみたく思う。国絵図制作は幕府にとっては行政上・軍事上重要な事業であった。徳川幕府は組織的に慶長・正保・元禄・天保と四回国絵図制作を行っている。慶長期の国絵図は慶長十年頃に調達の命が各地の大名に下されたようであるが,明確でなく,慶長国絵図関係史料もあまり残されていない。全容が明らかにされていない面もあり,徳川幕府の御用絵師も組織的に確立されていない時期でもあった。その後の元和・寛永期国絵図制作があったが,個別的で,統一的な絵図ではなかった。正保期の国絵図は徳川家光が正保元年に全国の大名に国絵図の調達を命じたもので,徳川幕府も安定期に入り,その権力によって強制的に,絵図様式を統一させて調進させた。この期は徳川幕府の組織も整備され御用絵師も確立されたと思われる。この時に,親藩・譜代・外様の各大名は自藩の国絵図制作にあたって,絵師あるいは絵図師を登用させたのである。この絵師は手持ちの絵師であったり,幕府からの紹介された絵師であった。徳川三百藩と言われているが,出来うる限り正保期の各藩の国絵図史料を調査し,拾いあげ,実体はどのようであったかを研究する。私はこの正保期に国絵図を制作した絵師が各藩の御用絵師となったのではないかと憶測しているが,史料を拾ってみて,検討した結果,異なった結果が生まれてくるかも知れない。しかし,江戸時代初期の絵師の動向が知られることで,この研究の意義があることを信じます。⑰ 「富本憲吉イギリス留学時代の研究」ーヴィクトリア・アンド・アルパート美術館所蔵作品のスケッチを中心として一研究者:京都国立近代美術館研究補佐員松原龍一色絵陶器で第1回無形文化財保持者に,また,文化勲章を受賞した,富本憲吉の作品及び,業績については,多くの研究がなされている。しかし,「模様から模様を造らず。」と厳しい作陶態度を生涯貫いた彼の源泉,初期の思想形成時代の研究は,ほ69 -

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