ことは,これまで日本ですすめられなかった清朝磁器研究の,また私自身の研究にとってもひとつの土台になるものと考えている。日本で見ることのできる作品は数も少なく比較的限られたタイプのものなので,研究をすすめるうえで「盲人が象をなでる」感をまぬかれ得ずにいる。国内の作品・出土品とともに,まとまったコレクションを詳細に調査する機会を是非とも得たいと考え,本調査研究計画を構想した。⑮ 平安・鎌倉絵画における風景表現研究者:九州大学文学部美学美術史講座助手緒方知美平安時代から鎌倉時代にかけては,絵画作品における風景表現が豊富でかつ多様であったことが,文献記録と現存作品から知られる。しかし風景表現に富んでいたと考えられる四季絵や名所絵といった大和絵障屏画の遺品はきわめて少なく,それらの大画面絵画においていかなる風景表現が展開していたか,という問題は,これまで諸先学によって繰り返し提示され,様々に検討されてきた。この問題にとりくみ,当時の絵画における風景表現のあり方に接近するためには,現存する仏教説話画などの大画面絵画や,紙絵や絵巻などの小画面絵画を視野にいれつつ,個別的具体的な作品研究を重ねることが不可欠であると考える。本研究では,ひとつの作品をとりあげその風景の表現形式を分析的に比較検討することで,複合的存在としての作品のうちに,他と共通する要素を見出し,風景表現の特性を導き出したい。また,そのような表現を実現化した契機を,時代的・地域的背景に求めることにより,主題・技法・表現の関連を,具体的にとらえたい。平安から鎌倉にかけては,中国・朝鮮からの影響が,絵画において顕在化しつつあった時期でもあり,東アジア全体の中での,日本の風景表現の特性についても考察を加えたい。77
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