鹿島美術研究 年報第12号
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① 内藤正人氏:「北斎漫画の研究ーとくにその初編を中心に一」すでに鈴木重三氏らによる研究があるが,この報告は,その上に立ってさらに総合的見地から考察を加えたものであり,とくに,『諸職画鑑』との比較か新しい知見として注目される。北斎が,これらから図様を借用する際,俵屋宗達,鈴木春信のように,原画の図様をそのまま転用することはせず,みずからのすぐれた造形感覚によってそれをつくりかえ,原画の面目を一新させていることが指摘される。すぐれて独創的とされる北斎の作画のなかにも,日本画家の常套手段である,他の原図からの模倣という要素が色濃く含まれていること,それにもかかわらず北斎の原画模倣は,結果として原図の有無を問題にしないほどの主体性の強いものになっていることを指摘して北斎研究に新しい視点を提供している。②林秀薇氏:「元代白描画研究趙孟頻「水村図」における渇墨使用について」この報告は,有名な北斎漫画の成立事情をその初編を中心に考察したものである。当時における画譜のバイプルともいうべき中国の『芥子園画伝』が,構成,内容にわたって典拠とされていること,当世の人物や風俗については,北尾政美の『略画式』および『諸職画鑑』から多くを得ていることの実情が,図版の巧みな対比によって明快に論じられている。北斎漫画が,何を参考にしているかについては,この報告の主題となる「水村図巻」は現在,北京故宮博物館に収蔵されている名品で,趙孟類画としては最も信頼できる基準作と考えられる。林氏は北京に直接赴き,特別観覧の困難な本作品を実地に調査してこの報告書をまとめた。元代以降の中国絵画,ことに南宋系の文人画では,渇筆を用いた画風が主流を占めるようになり,趙孟栢の「水村図巻」は,この新しい傾向の最初の作例といえるが,林氏は,-18

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