鹿島美術研究 年報第12号
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この事実の中国絵画史における重要性に着目し,本図巻を詳細に調査して,その技法の特性を明らかにしようと試みた。趙孟拍の渇筆使用について,林氏は二つのオリジンを考える。一つは,五代南唐の叢源の筆墨法であり,一つは北宋末の文人画李公麟のそれである。董源画では渇筆は殆ど用いられなかったと考えられるが,遠景表現における水平線の重なりが趙孟類では中景に用いられて渇筆と結合したと林氏は考えるのである。李公麟画では渇筆は部分的に使用され,人物や畜獣のモチーフによく認められるが,趙孟紺iにも類似の事実を指摘できる。また李公麟は文人の墨戯としてもうけとめられ,趙孟制画における渇筆使用をうながしたことも考えられる。以上,二つのオリジンを設定することで趙孟栢の渇筆使用の出現を説明する林氏の論旨は,作品についての周到な観察の上に成り立っていることで十分な説得力がある。「画を作るは古意あるを賞ぶ」と説いた趙孟類の画における古意のとり入れ方,従来画家の個性とされる筆墨の用法まで前代の画人を師範としようとしたことを明らかにし,趙孟頻画の意義を画面に即して説いた点が注目される。③ 岡泰正氏:「近世日本陶磁.漆工にみられる西洋絵画の受容と変容について」本的な装飾性を兼ね備えたこれらの作品は,江戸時代における洋風表現の歴史を工芸の分野から補強するものとして注目される。岡氏はつぎに,京阿蘭陀とよばれる特殊な焼き物の刀掛けや火皿をとりあげる。これは,オランダより輸入されたデルフト陶器にヒントを得たもので,日本国内の洋風趣味に応じた日本人の創案である。西洋絵画を絵付けし,伝統的な文様で余白を埋め世紀から19世紀中頃にかけての日本の洋風意匠による工芸をとりあげたものである。器のなかに,漆絵と螺釧で西洋の肖像画や風景画,特に海戦図をあらわすもののあることを,氏が海外で見出したさまざまな作品により紹介する。原画である銅版画の技法を蒔絵にうつしかえ,写実性と日この報告は,江戸時代中期から後期,すなわち18岡氏はまず,オランダ人の注文による輸出用の漆19 -

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