(1) はじめに(2) 『北斎漫画』と『芥子園画伝』たこの焼き物は,さきの漆絵とは制作動機も用途も全く異なるものでありながら,東西の画題・技法の混血という点で,軌を一にしている。鎖国下の工芸にみられる東西の美意識の混交という興味ある現象を指摘したこの報告は,従来絵画史に偏っていた江戸時代洋風美術史に新しい視野を開くものといえる。(4) 第10回研究報告会本年度の研究報告会は,平成6年5月17日鹿島KIビル大会議室において,上記の第1回鹿島美術財団賞授賞式,平成7年度助成金贈呈式に引き続いて3名の財団賞授賞者が次の要旨の報告を行い,約120名がこれを聴講した。研究報告者の報告要旨:① 『北斎漫画』の研究ーーとくにその初編を中心に一一報告者:出光美術館学芸員内藤正人葛飾北斎の絵手本『北斎漫画』は,画狂人を標榜した作者の,造形における試行錯誤の実験室ともいうべき作品集である。大小さまざまな図柄を実に豊富に集めているこの版刻の画譜は,このうえもなく魅力的な絵本の作例として古来多くの人々の心をとらえてきたが,実はその一方で,ミクロコスモスにも似たその内容が豊かに過ぎて,一律には語り尽くせないというのが実情であった。今回の発表では,この『北斎漫画』について,とくにその最初に発表された初編に重心を置きながら検討を加えるものである。具体的には,その画業全般にわたって絵本や画譜類の執筆に大きなウエイトを置いた作者北斎が,当初どのような意図でこの画譜をつくったのかという点と,さらにその折りに創作のためのエッセンスをどこに求めていたのかという問題について,いくつかの資料を交えながら考えていきたい。『北斎漫画』は,文化十一年(1814)から北斎の没年である嘉永二年(1849)まで(ただし明治期までにさらに追加の編が出される),都合三十年以上もの年月にわたって新刊が続いたロングセラーである。とくにその初編から十編までの十冊は,五年ほどの短期間に集中して上梓されている点が興味深い。そもそも本書の制作のきっかけは,20
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