研究目的の概要① ビザンティン・レクショナリー写本挿絵の研究研究者:早稲田大学文学部助手益田朋幸ビザンティン写本挿絵研究の重要性は誰もが認めながら,今日まで体系的な研究がなされているのは,旧約聖書五大書,詩篇,聖グレゴリオスの説教集等,極めて限られた分野に過ぎない。教会典礼で用いられるレクショナリーの挿絵は,イコン,聖堂壁画等他分野への大きな影響が想定されているが,J.C. Andersonのニューヨーク写本に関するモノグラフ1冊を除いて,各写本を綿密に比較した研究は全くなされてこなかったのである。その理由として考えられるのは,第一にビザンティン美術史が未だ若い研究分野であること,第二に18冊の写本が欧米各地に分散して,研究者が自由に接することのできない状況にあること等であろう。特に聖山アトスの諸修道院所蔵の写本は,女性研究者を完全に拒んでいる。またイスタンプール総主教座の図書館も,欧米の研究者に開かれていない。こうした状況下で,18冊の写本に関して基本的データと共に,挿絵の写真を公開することが急務であると考えられる。史料が揃って初めて,レクショナリー挿絵の起源に関する議論が活発になるであろう。その上で,ビザンティン聖堂壁画や,十二大祭に代表されるイコンの図像の典礼的な細部が正しく解明されるであろう。またアンドロニコスニ世のレクショナリー(大英図書館)の存在が公表されれば,美術史家のみならず歴史家にも大きな話題を提供することになると思われる。② フェデリコ・バロッチとカプチン会・オラトリオ会の精神的連関研究者:東京芸術大学大学院美術研究科博士課程甲斐教行わが国におけるルネッサンス,そしてマニエリスム期のイタリア美術に対する関心と研究がほぼ定培した今日,続く16世紀後半のいわゆる反宗教改革期研究が課題となっています。私が選んだテーマは,まさに同時期イタリアを代表する画家の一人,フエデリコ・バロッチです。バロッチは,ラファエルロの生地ウルビーノに生まれ,生-37 -
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