流が盛んであったので,観音菩薩像の発展はもっとも関係深いと考えられる。インドで形成されたのではない水月観音,白衣観音などの中国的な観音は,日本の仏教美術にも大きな影響があったのである。各民族にはそれぞれ個性があるので,中国から伝来された観音図像が,日本で長く保存された一つの要因は,それが日本の人々の好みに合致したからである。だから,日本に現存している中国の観音菩薩の作品の実態とその流れを究明することは,中国における中国的な観音菩薩像の形成に関する究明に大きな役割を果たすだけではなく,日本人が観音図像をどのように受けとめたかという問題も解決することができると考えられる。ところで,中国において石窟や寺院などに描かれた壁画はあちこちに見られるが,その多くは破損しており,敦煙壁画のように数多く保存され,しかも系統的に研究されているとれた絵画作品は,イギリスやフランスなどに別々に保存されており,各国では各博物館の所蔵品を基本資料として,かなりの研究が進んでいる。また,古くから日中文化交流につれて,日本では多くの中国絵画作品をみることができ,しかもこれらの研究は相当に進展している。観音に関する所蔵品を対象としての研究調査はそれほど進んでいるとは言えないという現象がある。本論文の目的は,中国的な観音菩薩像の成立とその流れを究明することであって,各地に現存する作品をできる限り実際に調査することを実行すれば,その結果は歴史的真実に近づくものとなっていくであろうことは言うまでもない。これは目的の達成に対する重要なポイントである。日本に留学する私が,この留学のチャンスを生かして,日本における観音図像の諸作品を実際に調査研究することができるのは,かねてから念願していたことの一つである。⑧ 近世建築彫刻にみる文様集成研究者:石川県立美術館学芸課学芸主任本谷文雄美術史を志す者にとって,その作品がいつ誰によって制作されたかを知ることは大きな問題である。これまでの文様研究をみていると,テーマ別に作品を集めただけのものが多く,それ以上の進んだ研究がないのが現状である。江戸時代に作られた絵画・陶磁器・漆器・染織品・金工品などを見ていると,同じえば,各国では独自の研究が進んでいるが,各国の-42 -えない。敦燈から将来さ
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