文様が描かれている場合が多い。つまりこれらの文様はそれぞれの分野独自のものではなく分野を越えて用いられていることがわかる。そしてこれら美術工芸品に用いられた文様は建築彫刻にもみることができる。絵画や工芸品は制作年代がはっきりわかるものが少なく,したがって文様から制作年代をきめるのは極めて困難であるが,近世社寺は建立年代がはっきりわかるものが多く,そこに彫られた彫刻を文様別に編年することは可能である。よってまず建築彫刻の文様を編年することによって,時代別の流行や,文様の上限・下限を知る必要がある。次に建築彫刻と近世絵画や工芸の文様の相関関係を調べ,美術工芸品の制作年代を知る目安として建築彫刻の編年を応用する。⑨ 鎌倉時代仏教彫刻における宋風受容の諸形態に関する研究ーいわゆる逆手来迎印像を中心に一研究者:大津市歴史博物館学芸員岩田茂樹鎌倉時代になって,仏教彫刻が慶派仏師の主導のもとにその様式を一変させるにあたり,奈良〜平安初期のいわゆる古典的諸作例とともに,中国宋代の仏像を参考とし,何らかのかたちでその影響を受けたことはこれまでにも指摘されている。しかし,その影響関係の実態については,まだ解明すべき点が多々のこされているように思われる。たとえば,鎌倉彫刻に影靱を与えたのは宋の仏像のうち,画像であるのか,彫像であるのか,それともその両方であるのか。あるいは,その影聾は部分形式の採用という局面的なものにとどまるのか,それとも,ひとつの作品の全体に浸透するパルスとしての影曹がいったんあり,それが日本的あるいは鎌倉時代的に翻案されていったのか。また,その影聾関係はかたちだけのものか,それとも作品の背景に存在する思想にまでおよぶものか。これらの問題については,これまでにも先学の諸研究があるが,なお学説の定立をみないように思われる。おそらく,個々の作品の様式分析と思想的背景の検討を今後さらに積み上げ,その累積のうえにトータルな輪郭をえがいてゅこうとする努力が求められるだろう。そこで本研究では,同時代史料によって宋画を手本としたことの判明する兵庫・浄土寺阿弥陀三聰像の中尊阿弥陀像かいわゆる逆手来迎印を結ぶことに着目し,同様に-43 -
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