なお,狩野探幽の画風は晩年において完成し,漢画風,大和絵風,それらの混消した画風など,さまざまな画風を展開し,以後の江戸時代絵画にきわめて大きな影響を与えたことが指摘されてきている。したがって,探幽の晩年についての研究は,探幽以降の江戸時代絵画史研究にも有益と考えられる。⑯ A.スティーグリッツとアメリカ初期モダニズム絵画研究者:福島県立美術館学芸課長早川博明写真家として知られるアルフレッド・スティーグリッツは,20世紀初頭におけるアメリカ近代美術の前衛運動を指導,育成した立役者であり,俊英な文明批評家でもあった。また,彼の教えや援助を受けて独創的な絵画芸術を生み出した初期モダニズムの画家は,その後のアメリカ美術の展開に大きな影響を及ぼしている。本研究の目的は,多面的な活動をしたスティーグリッツの足跡を検証して,その芸術思想の特質を明らかにするとともに,J.マリン,A.ダヴ,G.オキーフなどの初期モダニズム画家がスティーグリッツとの関係において,どのようなアメリカ固有の美意識を形成していったかを考察することである。近年,第二次世界大戦以前のアメリカ美術を紹介する機会が,わが国においてもにわかに増加してきている。しかしながら,それらに対する一般鑑賞者の反応は鈍く,美術専門家の理解さえも希薄といわざるを得ない。理由は様々あると思うが,わが国においては戦後の現代美術を理解することにのみ走り,その前史ともいうべきこの分野に関する基礎的な美術研究と普及活動が,ほとんどなされてこなかった実状と無関係ではないはずである。アメリカ近代美術の展開は,20世紀芸術に固有の問題である<都市と芸術〉<民族と芸術〉<芸術におけるナショナリズムとインターナショナリズム〉などのテーマを考える上でも重要な示唆を与えてくれるはずである。またこうした考察を深めることによって,一国の芸術史研究のあり方が修正される契機となるよう念願するものである。-48 -
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