鹿島美術研究 年報第12号
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観察し位置付ける新しい視点を与え,歴史的発展の道筋を明瞭にする意義を有する。また,デルフォイのシフノス・フリーズとベルリンのペルガモン・フリーズに関してはより具体的な個別研究を実施したい。両フリーズ共に解釈に関して研究者間に論争があり,現在に至るまで明快な結論が得られていない。申請者はシフノス・フリーズに関して浮彫と浮彫面に刻まれた銘の詳細な写真撮影を行い,解釈と復元の一部に関して新説を発表する予定である。ペルガモンeフリーズに関しても研究史において論点となっている幾つかのモチーフに関し綿密な写真撮影を行い,論文の形で新解釈を発表したい。⑯ 北イタリアの後期ロマネスクの教会,フィデンツァ大聖堂の建築及び彫刻について研究者:早稲田大学大学院戊文学研究科博士課程イタリア国立ピサ高等師範学校大学院児嶋由枝フィデンツァ大聖堂研究は何よりも,建築の造営過程,及びその工法,様式の把握を基盤としている。さらにこうした建築自体の調査に加えて,未完成のまま放置されたファサードの完成予想,また各彫刻の年代設定のためにも正確な図面の入手が要求される。このたび申請する助成金は,この図面作製のためである。現在申請者が所属するピサ高等師範学校の教員や学生のためにこれまでにも図面を作製してきた建築事務所に以下の3つの図面を作るよう依頼したいと考えている。①ファサードの写真測量図ーファサードの壁体,各石材の寸法,及び彫刻装飾の位置関係を明らかにし,全体の完成予想図を検討する為のもの。それによって各彫刻の制作年,全体の図像プログラム解明の糸口がつかめる。②立面図③平面図ー19世紀末の修復の際に既に両図面は制作されているが,厳密な正確さを有しているとは言い難い。従って各部の寸法を測定することにより,これらの図面の修正を行なう。両図面より支柱の構造上の機能,ヴォールトの構架法が明らかとなれば,12世紀後半の北イタリアの他の教会建築ーとりわけシトー会系教会ーとの影響関係が具体的に論じられることとなる。これは極めて重要な論点である。というのも既にワーグナー・リーグル(1956年)やボニー(1963年)が指摘しているように,ブルゴーニュからロンバルディアにわたる地域における,イル・ド・フランスのものとは異なる尖頭ヴォ-56 -

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