洋子⑱ ヨーゼフ・ポイスの素描の記譜法ーレオナルド『マドリッド手稿』との関連で研究者:同志杜大学文学部専任講師岡林「意義・価値」従来のわが国におけるボイス研究の多くのものには限界があり,ドイツの正確な現代美術の流れを踏まえようとするものがほとんどなく,多くはジャーナリスティックな論調であったり,あるいは殊更に彼の活動の精神的な背景だけを問うものであり,彼の美術を巡って何らかの理論的考察がおこなわれたことはなかった。同じ様にドイツでも,彼のアクションの分野に関する学問的な研究の成果が既に現れてはいるが,不思議なことに素描についてはまだ本格的に研究が始められるまでに至っていない。この研究は彼の素描を中心とした美術の本質を明らかにするために,まず基本となる文献をそろえることから始められなければならないが,この困難な作業に一つの手掛かりを与えてくれるものが,常に彼の素描の念頭に置かれているレオナルドの存在である。レオナルドの活動全体において素描が持っていた特殊な意味を重ね合わせることによって,さらに「何かのための予備段階ではない」(アドリアーニ)ポイスの素描の独自な意義を問うこの研究の基盤が出来上がり,美術の側からのポイス研究の水準が飛躍的に上がることが予想される。「構想理由」実際にはポイスは予想以上にレオナルドの美術そのものについて関心を示しており,このルネッサンスの天オの作品の構図分析を彼は熱心におこなっている。またボイスの「『マドリッド手稿』のためのドローイング」は不思議なほど元の『手稿』を一冊のスケッチプックの版型にいたるまで形式的条件をそのまま受け継いでいる。したがって従来考えられてきたポイスとレオナルドの関係をはるかに越える両者の密接な関係を見出すために,他でもないボイスの素描を中心とした研究が構想されたのである。⑳ 滴湘八景図の調査研究研究者:福岡市美術館中国で北宋末に宋迪によって創始されたと言われる灌湘八景図は,中国のみならず,朝鮮半島では李朝時代中期頃から,日本では南北朝時代から,山水画の画題として繰池田58 -
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