り返し描かれた。そして,それは単なる異国趣味的な流行に終わらず,愛山水の思想に支えられて,各国の山水画の伝統となり今日まで描き続けられている。灌湘八景図が東洋の普遍的な山水画となるに至ったのは,滴湘の景観が中国の山水の象徴的な存在として,朝鮮や日本の人々の憧憬の対象となったからだろう。また,それ以上に,灌湘八景図が水墨の山水表現の基本的な要因である,時間,気象,景物,名所絵的魅力を集約しているからと思われる。多様な要素を内包した滴湘八景図は,それ自体として描かれるだけでなく,広く絵画,工芸の山水表現の中に各要素を留めている。特に日本の山水表現は,灌湘八景図から各要素を引用することで,より多様で豊かなものとなった。滴湘八景図は,いわば日本の山水表現の原型の一つであったと言える。本調査研究には二つの目的がある。第一は,中国,朝鮮,日本の滴湘八景図とそれに関する作品を調査して,写真資料を収集しデータベースを作成することである。第二は,室町・桃山時代の滴湘八景図が,日本へ室町時代に輸入された中国の牧総,玉澗,夏珪,及び朝鮮の滴湘八景図をどのように取捨選択しながら受容し,展開したかを整理することである。第二の研究では,室町・桃山時代の滴湘八景図をいくつかの系統に分類することや,他の山水画において漢湘八景図の各要素がどのように引用されたかを具体的に究明することも併せて試みる。そして最終的には,本調査研究に基づき,滴湘八景図を中心とした展覧会を,アジア美術の紹介を標榜する当館において企画したい。⑳ 関東地方の出土金銅仏に関する基礎的研究研究者:トキワ松学園女子短期大学専任講師山田磯夫近年,各自治体の教育委員会を中心とした,仏像の悉皆調査が進められ,多くの報告書が刊行されている。また,埋蔵文化財に関する発掘調査の報告書でも金銅仏の出土例が散見される。しかし,仏像の調査では寺院や堂宇などに所在するものに限定され,個人レベルで所蔵される出土した小さな金銅仏まで調査の手は入らず,発掘された金銅仏にしても美術史的な調査がおこなわれることは少ない。したがって金銅仏に関する研究は,出土金銅仏を含めた総合的な考察をおこなう段階には至っていない。本調査研究は,地域を関東地方に限定し,これまで資料データのそろっていなかっ59 -
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