た出土金銅仏の調査を実施し,出土地・出土状況・構造などの基本データを揃えて分類・整理をおこない,その成果を基に関東地方の出土金銅仏の制作時期を把握することを目的としたい。また,伝世する金銅仏に出土した金銅仏を含めた,関東の金銅仏史にも言及できると考えている。さらに,考古学や歴史学の分野では,各地の古代・中世遺跡から発掘された文字瓦や墨書土器などの文字資料によって,寺院跡や地方仏教に関する研究が進んでいるが,平安時代後期の文字資料は柩端に少なく,この時期については充分な成果が得られていないのが実状である。ところが出土金銅仏に関しては平安時代後期の作例も比較的多く発見されているので,考古学や歴史学に対する補完的な研究としても位置づけられるものと考えている。⑪ 中国漢・南北朝時代の小文化センターについて研究者:筑波大学芸術専門学群専門講師八木春生中国の漢魏六朝時代美術の研究は,これまで資料上の制約から西安・洛陽・大同・南京といった王朝の所在地における研究が主流であった。しかし近年これ以外の地域でも新たな資料が蓄積されるようになり,多くの地域で研究が可能となっている。その結果従来画一性が高いとされていた漢・六朝時代の美術が,実は多様な地域性を持っていたことが明らかになりつつある。すなわち,従来の研究が対象としてきた王朝の所在地という中央の大文化センターとは異なった,各地域の小文化センターごとの様相が明らかにされつつあるのである。このような研究は従来からの漢・六朝美術研究に新たな視点を提供するものといえるが,各地域ごとの研究は始まったばかりであり,依然として研究の空白区を多く抱えている。そのためそれを埋めることが現在急務である。このような研究の現状から,今回の調査研究では空白区の一つである挟西省漢中地区を選択し,漢・六朝時代美術の総合的な検討を通じて,地方的な小文化センターのありかたを明らかにすることを目的としたい。漢中地区を選択したのは,この地域が薬嶺山脈の中にあることから周囲と隔たっている反面,北は西安を中心とする関中盆地に,東は漢水を通じて南陽盆地,さらには長江流域に,西は四川省へと通じる交通の要衝となっていることからさまざまな文化の影響を受けており,地域的な小文化セ60
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