第一に,その誕生の背景•原因。一般には自然観の変化が挙げられるが,近年明らフリードらが唱えたモダニズムの理論においては,視覚性がモダニズム美術を定義づける基本的な要素となっていた。したがって,デュシャンの芸術における視覚性を指摘し,考察を深めることによって,反芸術の流れだけではなく,モダニズム美術をも含めた今世紀美術の大きな流れの中で,デュシャンの芸術が果たした役割を明らかにすることができると確信している。⑮ イギリス風景式庭園に関する美術史的アプローチ研究者:広島大学総合科学部講師安西信一エデンの園からテーマ・パークまで,広義の庭園は,人類にとって常に重要な芸術的構築物であり続けて来た。実際,十八世紀のイギリスでは,庭園は諸芸術の筆頭に挙げられてすらいる。ところが十九世紀以降,芸術が純粋化の一途を辿り,日常生活から乖離すると,庭園は周辺的な(疑似)芸術へと貶められるに至る。これに対して近年,閉塞状況にある現代美術への反省,ランドアートやエコロジ一美学の興隆等と相侯って,庭園を再び芸術として取り上げる研究が盛んになって来た。この流れを更に美術史的観点から押し進め,一層実証的で厚みのあるものにすること。―これが,本研究の最も根底的な問題意識である。具体的には,十八世紀イギリスで誕生した「風景式庭園」に焦点を絞りたい。これは,幾何学的様式が支配的であった西欧では先例のない,非整形的な庭園様式である。しかしその具体的内実は,庭園が美術史研究の対象となり難かったこともあり,十分明らかにされていない。特に以下の三点は重要と思われる。かにされて来たように,事情はより複雑であり,政治=経済的要因(イギリスが逸速<達成した市民社会と自由主義経済),農業の進歩と自然破壊,風景画・演劇・古典文学等の諸芸術,旅行,経験論哲学等,多様な影響源を解明せねばならない。その解明は更に,近代社会・美術の枠組み全体を反省することにもつながろう。第二に,十八世紀を通じての様式的変遷。風景式庭園は一枚岩的ではなく,当時の社会状況と対応した様々なニュアンスの変化を含む。その差異の精査は,庭園が持つ豊饒な可能性を示唆し得るであろう。第三に,十九世紀以降の造園との関係。風景式庭園の制作原理は,都市計画や開発_ 64 -
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