鹿島美術研究 年報第12号
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⑰ 中国仏教造像碑の調査研究研究者:恵泉女学園大学非常勤講師石松日奈子中国南北朝時代の仏教彫刻史は,つねに石窟造像を中心に語られる。そそれは石窟造像が造形を語るに十分な大きさと内容をそなえているからである。しかし,石窟造像のみで中国の仏教造像史を語ることもまた難しい。石窟は,いつの時代も絶え間なく連続的に造られてきたわけではないし,また中国という広大な国土の中では作風や様式に地域的な差異が生ずることも当然である。このような石窟造像の断絶期や地域差を補い,幅広い階層の信仰や造像の実態を物語るのが単独の石彫像や金銅仏であろう。中でも今回私が調査研究の対象とする「造像碑」「碑像」「四面像」などの石彫像は,一個の石材に複数の造像面を作り,それぞれの面に数多くの聰像を彫り出しさらに銘文を刻むもので,造像史的にも信仰史的にも実に盛りだくさんの内容を備えている。また,石碑の形をした仏教造像碑は明らかに中国伝統芸術と外来仏教芸術の融合によって生まれた形式で,墓室芸術との接近によって仏教芸術が中国的な表現に変容したことを示す好例である。そしてそこには仏教ばかりではなく,中国固有の道教信仰による造像も見られる。造像碑の彫刻はすべて浮彫り像で,石窟の像に比べれば小型ではあるが,時代の特徴や地域の個性が鮮やかに現われており,すこぶる先進的な作風を示すものから,いかにも素朴な作ゆきのものまでまことに多彩である。今回この種の造像を丁寧に調査研究することによって多くの新たな知見が得られるならば,従来の石窟造像史の空隙を補うとともに,中国仏教彫刻史研究の様々な方面に有益な成果をもたらすことができると確信している。⑱ 定家様筆跡の分類と美術史上の意義研究者:財団法人五島美術館書道史における成果は,美術史の上で重要な役割を果たすことが多い。美術としての書作品ばかりではなく,単なる文字としての書が,絵画や陶磁器その他と同時に存在している時,その筆跡の解明から,作品の背景や,制作年代を明らかにすることができる。名児耶-66 明

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