Iride 虹について』などには,天地創造にあたって原初の光Luxの誕生が宇宙を生みたとえば,絵巻の研究では,絵の部分が中心となリ,詞書部分が軽視されてきた。美術書でも,詞書部分が省かれていたり,小さい図版であった。ところが,筆跡には,作者が判明するものや,書写年代の推定できるものがある。今までも,著名な作品については,かなり筆跡も含めた研究がなされているが,全体からするとごくわずかにすぎない。もっと書の部分を重視すべきである。そこで,数多い筆跡の中から,長期にわたってある一定の書風が書きつがれているものを選び,その書風の変遷を整理する。それができれば,その書風の現われる多くの美術作品について,背景や制作年代が判明する可能性が高い。特に,鎌倉時代はじめから,江戸時代にかけては,一つの書風が引きつがれる例が多く,そうした解明に有益であると思われる。中でも藤原定家の書風は,室町時代から江戸時代の冷泉家をはじめとする多くの人々によって書かれ,美術作品にもよく登場する。この書風の整理は,もっとも目的達成に近いものである。⑲ R.グロステストと同時代の建築装飾研究者:湘南国際女子短期大学助教授本研究の目的は,13世紀の偉大な知性が具体的に同時代の大聖堂建築の造型活動にどのような形で関与しえたかを,可能な限りで問うことにある。周知の通り北フランスのサン・ドニ修道院長シュジェールの指導の下に聖堂の拡張・再建工事が進められ,その造型理念を院長自身が『献堂記』他に記したことはゴシック建築史上名高いが,本研究の対象であるR.グロステストについてはごく一部の研究者を除いては未だ注目されてはいない。グロステストは聖職者としての活動もさることながら,むしろ自然科学者として後進のRogerBaconロジャー・ベーコンに継承される英国の光学的研究の端緒をきずいた人物であった。グロステストの著作として有名な『DeLuce 光について』,『De出すこと一一現代のビッグ・バン理論にも近い記述が見られる。さらに自然界の光体としての太陽や月の光をLumenととらえ,神の光との区別も見られるなど形而上学と自然科学双方にまたがる幅広い視野からの光の考察がなされている。そうした光とそれを入間の目がどのようにとらえるかという視覚論がすなわち中世の光学ペルスペク野禎子-67 _
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