鹿島美術研究 年報第12号
95/116

@ イスラーム・ミニアチュールにおける動物意匠についての基礎的研究研究者:岡山県立大学デザイン学部助教授甲子雅代本研究の意義は代表的ミニアチュール作品である『王の書』を通じ,イスラーム・ペルシア美術における西アジア古来の動物意匠の復活と形態の具象性を抽出し,さらに,それがどの様にイスラーム化してきたかという点にある。イスラーム美術史において,動物意匠は,あまり取り上げられなかった。しかし,ここ数年,マイクロ・フィルムの整備,数種類の刊本の発刊により,研究が以前よりやり易くなってきている。メトロポリタン本・ホートン本などの比較が可能になったのである。そこで,数種の刊本の動物意匠を前述の動物だけではなく,種別に取りあげ,構図・色彩・形態の相違を検討する。そのことにより,時代性,あるいは地域性が判明するのではないかと考える。アジャム(非アラプ・アラビア語を主要言語としないイスラーム)のもっ,幻想性や楽園思想が,時代を経るにつれどの様にイスラーム世界に浸透し,定着していったかについて,考察する。研究題目に特に「意匠」としたのは挿絵全体のデザイン研究が必要であると考えたのである。すなわち「絵柄としての挿絵」がどの様にイスラーム化したのかという研究が必要であると考えたからである。その中で何をもってイスラーム・ミニアチュールというのかという定義を考察する。特に留意している点としては欧米研究にあまり影響を受けずに研究を行いたいということである。その為に,アラビア語・ペルシア語の原典を使用したいと考えている。⑫ ロンバルディア地方のVI世紀よりIX世紀の建築及び建築装飾・浮き彫り彫刻の調査研究研究者:東京大学文学部助手奈良沢由美ロンゴバルド王国支配期に制作された,浮き彫り彫刻等の建築装飾は,その後長期間にわたり破壊,散乱の被害を受け,あるいは,続く時代の新しい建築構想に組み込まれ,時間的・空間的情報が不確かであったり,あるいは完全に剥奪されている事例が多数である。こうした断片的な残存の状況と一般的関心の乏しさから,本格的に研究が進められたのは1950年代以降であり,近年までに遺物を地域別に収拾したコルプスの刊行,複数の学究会議,同テーマに寄せる研究論文集の出版等,体系的な研究が-69 -

元のページ  ../index.html#95

このブックを見る