重ねられ,飛躍的成果が上げられているが,解明されている部分はまだわずかだとえるであろう。絶対的に得られる情報が少ない作品群に対して,最大限可能な歴史を構築するために,現地においての詳細な観察と記録とともに,出来る限り広範囲に網羅的に調査対象を拾い,また時間的にも考察範囲を広げることが一方法であると考える。この時代の芸術的特性である,多数の地域の様式の併存と混消,すなわち,先行するグレコ・ローマン文化の素地,コンスタンティノープルより移入されるビザンチン美術,ゲルマン文化,中近東より移植される東方的美術,等の多様式の混消の様相を分析し,土着的芸術嗜好伝と移入文化への取り組みの時間的推移を,イタリア各地域を比較しながら考察することを研究の全体の目的としている。⑬ 18世紀フランス美術における蒐集家・愛好家の活動とその影響研究者:青山学院大学非常勤講師矢野陽18世紀フランス絵画を研究する場合,まず主要な画家とその作品を調べ主題や表現様式を分析する,いわば作品に即したアプローチがある。一方,画家を取り巻く杜会,環境に目を向けるアプローチもある。後者の場合,国家が芸術を主導したフランスにおいては,まずアカデミーとサロンが重要な研究対象となる。これはいわば公的システムであり,芸術を指導・規制するもので,ロカン以後,近年,数々の優れた研究がなされている。美術愛好家や個人コレクションは,これに対し,いわば私的な要素の強いシステムであると言えよう。珍しいものを集める行為から発達したコレクションに関しては,最近アントワーヌ・シュナッペル,クシシトフ・ポミアンの詳細な実証的研究が発刊され,また美術愛好家で版画家のシャルル・ニコラ・コシャンを扱ったクリスチャン・ミシェルの浩翰な研究書も刊行されたばかりである。このようにコレクションの問題は,今日,きわめて重要な研究テーマとして注目されている。この研究では,コレクションの内容や愛好家の活動を,同時代の絵画作品と関連させて考察することにより,画家と享受者との相互の影聾関係がどのようなものであったのかを明らかにしたいと考えている。そうすることによって,18世紀フランス美術の理解をいっそう深いものにすることができると思われる。70
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