18世紀フランスの蒐集家の数は時代を経るにつれ,、増加していき,フランス革命時にはかなりの数にのぼっていた。また一般公開の売立ても18世紀の後半にその回数が急増し,作品の価格も上昇した。こうした社会現象に関する考察は,絵画史の研究において重要な部分を占めると思われる。なぜならばヴィジェ=ルブランが『回想録』の中で述べているように,18世紀の個人コレクションは芸術家の形成に大きな役割を担っていたし,美術市場が成熟していくにつれ,作品の価格は,一般の趣味をかなり正確に反映していたと考えられるからである。⑭ 雪のサンタ・マリア図の原画研究者:長崎県立美術博物館長崎26聖人記念館所蔵の「雪のサンタ・マリア」図は,元来の図様のごく一部しか残っていないと思われ,この図からはその本来の姿を知ることは殆どできない。ただこの図には特徴的な表現があり,その特徴的表現は,日本へ伝来されたと思われる一点の銅版画をもとに銅版画の復刻とこの「雪のサンタ・マリア」図制作のために利用された可能性があることを示している。この事実は写真による確認だけでは不充分である。復刻された銅版画がローマのバティカーノ図書館にあり,これを実見する必要がある。このことが実現すると,これまで推測で考えられていたキリシタン絵画が,伝来された銅版画を元に,これを彩色画としてわが国で描き上げたとしていることの明確な確認になるし,その際の拡大の実際や原画としての銅版画に対する模写の忠実さなどが明らかになるとともに,わが国の当時の西洋絵画に対する接し方,理解のあり方なども明らかにできる。また,その復刻版の「聖母と眠れる幼児キリスト」の制作年がほぼ正確に認定できることから,わが国における,いわゆるイエズス会系での初期洋風画が確立された時期の推定も可能になる。門員徳山光-71 -
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