⑮ ヤン・ファン・アイクの寄進者像の形式における「新しき信仰」運動の影響について研究者:東北大学大学院文学研究科博士課程伊藤伸子15世紀にネーデルラントで活躍した画家たちの作品には,空間や光の処理に相互影響の跡が認められ,一致した関心の存在をうかがわせる。これに対し,寄進者の表現という点からは,大きく分けて二つの異なった流れを見出すことができる。それらのひとつは聖書物語の場面内に寄進者像を描くフレマールの画家ーロヒール・ファン・デル・ウェイデンと続く画派であり,もう片方は祈疇所内の礼拝者として寄進者像を表すヤン・ファン・アイクーベトルス・クリストゥスと続く画派である。前者については従来から描写的な性格の強いドイツ系神秘主義の流れをくむ受難文学からの影響が指摘されてきたが,後者の性格づけは明確には行われてこなかった。しかし,祈疇所内の礼拝者としての寄進者表現は,聖画像を前にしての瞑想的礼拝を絵画化したものと考えられ,そこには「新しき信仰(DevotioModerna)」運動からの影響が感じとられる。この新興の宗教運動は北部ネーデルラントに起源を有し,フランドル地方では15世紀以降さかんになったもので,神秘的傾向のないおだやかな瞑想を旨としており,ファン・アイク系統の寄進者像との近親性が認められる。さらに,1431年以降ヤンが居を構えたブリュージュでは1421年に「枯木の聖母」信心会が創設されており,構成員にはヤンの主君であるフィリップ善良侯夫妻や,一説ではペトルス・クリストゥス夫妻をも抱えていたとされる。よって今回の調査研究では次の二つの点が明らかにされるものと信ずる。ひとつはフランドル地方の信心会活動の,教育機関としての側面ーすなわち教化手段としての「芸術」概念の解明であり,もうひとつは,教義・礼拝方法・聖画像概念の把握に基づくファン・アイク系統の寄進者像の形成過程の解明である。⑯ 印象主義形成におけるモネの絵画の筆触研究者:大手前女子大学助教授六人部昭典まずモネあるいは印象主義の絵画に関する全般的な研究を振り返ると,1970年代頃までは専ら絵画の形式の面が考察され,それ以降は主題研究が盛んである。ところが前者は筆触の問題を軽視したことに示されているように不十分なものであり,後者の-72 -
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