Art)。またリチャード・シフがセザンヌの筆触について興味深い考察を行っているが,physicality : the politics of touch")。これらとは別に,近年には同時代の批評に関研究もやや偏った傾向が見られる。絵画の形式と主題の両方を視野に入れた立場で,印象主義絵画を包括的に考察することが求められている。次に,この時代の絵画の筆触に関する近年の研究を挙げると,ジョン・ハウスがモネ研究においてこの問題に1をさいているものの,基本的には技術論に留まっている(Monet: Nature into 印象主義形成における筆触の問題には,あまり言及していない("Cezanne'sする本格的な研究が始められているが,筆触の問題はそこでも十分に扱われてはいない。本研究で考察しようとする筆触の問題は,それ自体は絵画の形式に関わるものである。しかし印象主義の形成において,筆触による表現がどのようにして絵画制作の中枢に位置づけられるに至ったかという過程は,戸外の自然に対する関心のみならず,同時代の新しい風俗を積極的に描こうとした姿勢と直接的に結びついていると思われる。そこには絵画の実在性をどう考えるかについての,本質的な転換があっただろう。印象主義形成期のモネの絵画において筆触表現が明確になってゆく過程を,主題との関わりや,背後にある時代の思潮の中で考察することは,印象主義絵画の特質を全体的に明らかにする上できわめて重要である。さらに印象主義以後の動きに目を転じると,1880年代中頃に登場する新印象主義は印象主義との相違を筆触の形状に求め,またセザンヌは筆触を体系的なものに発展させてゆくことによって自己の様式を確立したといえる。印象主義絵画の筆触の問題は,印象主義以後の時代を含め,19世紀後半のフランス絵画の展開を明らかにする鍵ともなるのである。⑰ 近代陶芸における西洋陶磁の影響ー板谷波山の作陶を中心に一研究者:闘出光美術館学芸員荒川正明本研究の目的は,日本の近代陶芸の成立の背景に関して美術史的に考察することにある。特にこれまで比較的曖昧のままにされてきた「近代陶芸における西洋との関連」というテーマについて取り組んでみたいと思う。この研究で主な対象とする板谷波山は,これまでも「近代陶芸の祖」として評価が高かったが,彼こそまさに東洋陶磁の-73 -
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