研究報告者の報告要旨:① 「19世紀後半のフランス染織デザインにおけるジャポニスム_ミュルーズ,リヨンにおける生産を中心に一ー」報告者:京都工芸繊維大学大学院博士課程廣瀬経済的影聾を踏まえながら考察していく。現在ミュルーズの染色美術館には,19世紀後半のフランス人の手による染色布や下絵などが現存している。これらはミュルーズの産業デザイナーらによって1860年代から70年代にかけて寄贈されたものである。それらのデザインの特徴は,全く日本の伝統的な文様の複写の他,日本のイメージを膨らませた存在しないような不思議な植物を描いたもの,あるいは西洋的な図案との妙な組合せのものなどが多い。図案の出所についてはショーンノプの寄贈品の中に広重,歌麿,英泉,芳瀧の浮世絵,北斎漫画の表紙が含まれていることなどから,彼らが日本の文様を知り得ることができたと推察することができるが,このような日本的な染色品が製作された理由については「19世紀ミュルーズの産業と歴史」の中で日本へ向けて毛織物の上に非常に巧妙なデザインを施したものが作られていたと記されていることなどから,日本へ向けての輸出用として製作が行われていたと考えられる。リヨンと広東(中国)との間には,蚕種や生糸の貿易が既に行われていたが,19世紀後半,日本の開国後にはリヨンと横浜との間で生糸貿易が開始され,横浜の生糸会杜の支店がリヨンに開かれるなど非常な勢いで生糸貿易が行われた。その理由はヨー(2) ミュルーズにおける日本様式の染色品について(3) リヨンの絹織物とジャポニスム(1) はじめにや工芸品をもとに日本の図案を取り入れた作品が作られるという現象があった。したと思われる下絵や染織品が1860年代には既にミュルーズ,リヨンといった都市で製作されており数多く現存している。これらの生産活動について美的,かつて19世紀のヨーロッパにおいて,日本の絵画特に染織の分野については,日本の図案を参考に-20 緑
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