される。またそれは換言すれば,中世人の動物観そして世界観としてこうした構造があったことを本図が物語っているともいえる。【結語】自然的主題理解・寓意的主題理解の上に立ち,本図におけるこうした世界の二重構造把握を認めるとすると,この世界構造の彼岸として,人間と動物を含めた六道を輪廻する衆生の究極の一元的目標である極楽浄土が位置づけられる。極楽に往生することを本図の暗黙の前提と目することにより,例えば仏を中心に捉えて菩薩・人間・動物を求心的に配した涅槃図の構造と同様のプランをもって,本図の世界像が構築されていることが理解し得るのではないであろうか。(註)『鹿島美術研究』(第11号年報別冊)(平成6年11月刊)所収論文,及び『帝塚山学院大学研究論集』第29号(平成6年12月刊)所収論文参照のこと。③ 「ヘレニズム期の墓碑における絵画的表現についての一考察」報告者:ハーバード大学大学院博士課程中村るい本稿は,ヘレニズム期の彩色墓碑の一例として,「ヘディステの墓碑」をとりあげ,伝統的なアッティカの墓碑との関連,また,当時の社会の価値観などについて考察するものである。「ヘディステの墓碑」は,紀元前3世紀後半に描かれた大理石製彩色墓碑で,現在は,ヴォロス美術館に収蔵される。とくにこの墓碑の図像は,産褥の床における若妻ヘディステの死の描写であり,このことは墓誌銘にも明確に示される。これは伝統的なアッティカの墓碑の図像においてはきわめて稀なものである。加えて,若妻の半裸の死体表現自体,アッティカの伝統を逸脱したもので,この図像の選択の背景については未解決の点が多い。今回の報告では,「ヘディステの墓碑」に描写された空間構成の問題と,ギリシアの葬礼慣習(とくにアッティカの墓碑と白地レキュトスを含む彩色陶器を通して理解される伝統)における「ヘディステの墓碑」の占める位置当時の社会背景,の三点を中心に述べたい。なお,墓碑には,根本的に相反し,かつ補完し合う二つの面,すなわち,1)肉親の死を悼む私的感情の表出,2)公的空間に設置される公的標示物としての側面が含まれ,この二面を念頭に,ギリシア葬礼芸術の伝統における一墓碑の位置付けを試みたい。「ヘディステの墓碑」は,幾層にもわたる奥行きをもつ独特の空間を表現する。これは,舞台空間の構成を想起させるもので,前景,中景,後景が明確に区分される。画24 -
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