鹿島美術研究 年報第13号
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研究目的の概要① 宋代官窯陶磁の研究研究者:神戸大学大学院文化学研究科博士課程宋代の陶磁器は中国工芸の輝かしい達成の一つであって,各地に興った多数の陶窯は何れも今日再現し難い程の高度の技術を駆使して,精良な作品を多量に製作した。その中に最も優れる代表的な作品は,官窯(広義的)製品の陶磁器であるといえよう。この研究は,従来の観点を再検討し,中央から監督官が派遣されて宮廷使用の御器を焼造した,あるいは中央政府の命令によって宮廷もしくは官庁に献上した諸窯の陶磁器を通して,いわゆる宋代の官窯製品の共通的な特徴を見いだし,その政治・経済・歴史背景などそれぞれの様相,及び生活方式の変化による器物の製作技術の変遷を核として,その実態を明らかにしていきたいと考える。とくに,つくりだすはたらき,つくられたもの,享受するはたらきの三つの面から,官窯製品の発生,完成,影響などについて,より一層究明しようと思う。② 慶長期造形史の研究〜宗達を中心に〜研究者:萬野美術館主任学芸員田中英日本の絵画史を考えるにあたって,慶長期という時期はこれまでさほど大きく取り扱われることはなかったように見受けられる。その前の時期,戦国覇者の象徴としての城閣建築に雄々しい金碧障壁画が描かれた天正・文禄期と,その後の時期,元和・寛永期に朝廷と武家との緊張感の中で江戸様式が整備された時期との狭間にあって,慶長という時期には明確な性格付けが行われないできているのである。それは,ひとえにこの時期の絵画作品を前後の時代と同じ基準で比較した場合にマイナスの要素が多いためともいえるが,しかしながら,広くこの時期の造形作品を見渡してみた場合,絵画だけでなく陶磁器,漆工,染織等の工芸作品も引き続き活発に造り出されており,そして,そこにはそれまでとは別の美意識が通低しているとともに,新たな制作環境が整えられつつあることが理解できる。例えば,李朝屏風に多くみられる水墨押絵貼屏風は,朝廷での「手鑑」制作の流行にみられるようなコレクシ39 -陳階晋

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