展は戦後まもなくから今日までの前衛美術や現代美術を概括した試みとして意義ある試みであったが,その際前衛の出発点に置かれたのは関西の「具体美術協会」であった。それはこのグループの活動が抽象表現主義やアンフォルメルといった国際的な美術動向と同時に,しかも海外からの移植ではなく日本で独自に起こったという点で評価されたためと言える。それゆえに,戦前のモダニズム傾向の延長上にある前衛的作品は除外されることとなったようだ。しかしこの研究姿勢は,アメリカ型のモダニズム史観の日本への適用であって,日本の実態を正しく跡づけているのか,疑問を抱かずにはいられない。筆者としては,まずこの除外された部分の実態を明らかにしたい。この領域で先行する調査・研究としては,時代動向を概括した東京都美術館や板橋区立美術館などの調査・研究があり,また個々の作家については各地の美術館で(主として,地元とのゆかりを理由として)回顧展が行われるなどしている。最終的には,美術が人間の精神活動の大きな部分を占める以上,「日本的であること」を探ることにより,戦後まもない日本の,さらには現代の私たちの文化的アイデンテイティを考え直す視点作りに寄与したいと考える。⑥ 1-4世紀の楼蘭王国の美術と西方の関係研究者:カリフォルニア大学バークレー校大学院生中西由美子タクラマカン砂漠の南北に点在するオアシス都市を結んでいた西域南道の東半分にあるローラン(クロライナ),ミーラン,ニヤ遣跡などの古代楼蘭王国(善闘善)の諸都市からは,タリム盆地の中でも特に古い美術品(AD1C-4C)が発掘されているが,西方世界から遥か東,現在では中国新彊ウイグル自治区の東端に位置していたにもかかわらず,その美術様式は西方的色彩の濃いものとして知られている。この地域の美術作品としては,各地から出土した織物,印章,ミーラン出土の仏教壁画,主にニヤ遺跡から発掘された木工芸品等が挙げられるが,現在はニューデリー,ロンドン,ウルムチ,ソウル,東京,京都等,世界各国の博物館や大学に分散所蔵されている。この為,これまでの研究は断片的なものが多く,スタイン将来の織物,壁画の研究や,大谷探検隊将来の壁画の研究など,テーマも絞り込まれたものが多かった。以前から発掘されているものに加え,最近の発掘品を含めた様々な作品を包括した研究はいまだかつてないことから,体系的な美術様式の研究の必要性を感じてきた。これらの美術-42
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