品に見られる西方的要素(ガーランドや有翼天使のモティーフ,写実的な陰影法等)についても,西方のローマ,地中海沿岸の美術からの影響,あるいはこれらの美術様式と深い繋りがあるとされるガンダーラ美術との関連性などが指摘されてきたが,その詳しい影響関係について不明な点が少なくない。最近ではガンダーラだけではなく,他の周辺地域においても発掘が進んできており,これらの美術様式と比較することは南道に現れる西方的要素を再考する上で価値のあることであると強く感じている。そして,どのような経路によりこの地域に西方的要素を含んだ美術様式が開花することになったのかを追究したい。本研究ではクシャンをはじめとする周辺の美術との関係だけでなく,民族・文化の交流や仏教東漸の問題を解明するのにも役立つであろうと期待する。⑦ 19世紀フランスの諷刺画の研究研究者:栃木県立美術館主任学芸員小勝證子諷刺画の起源は絵画の誕生とほぼ同じ古代にまで逆上るものだが,壁の落書きや粗雑な刷りもの(版画)などの安っぼい形式をとることが多かったため,芸術としては二流,三流のものと見なされて来た。18世紀イギリスのホガースや,19世紀フランスのドーミエなど著名な諷刺画家の作品を除いては,満足な研究が進んでいないのが現状である。しかしながら諷刺画は歴史的事件や政治の腐敗を糾弾し,社会風俗に見る新奇さや滑稽さを椰楡するという性格によって,歴史,風俗資料として第一級の価値をもつばかりでなく,真に偉大な諷刺画においては,個別の歴史や特定の個人への諷刺を乗り越え,人間の普遍的性格への深い洞察が籠められていると言えよう。さらに16世紀以降,諷刺画は主に版画という形式で描かれ,大量に流布されてきたのであり,諷刺画の研究とはとりも直さず版画という芸術形式の研究の一部とも換言し得るであろう。本研究では,産業革命による印刷技術の飛躍的進歩と都市人口の急激な膨脹を背景に,新聞・雑誌の出版が未曾有の発展をみた19世紀フランスに範囲を絞り,諷刺画がいかに多様に花開き,発展したかを跡づけることを目的とする。そうすることによって,上述したような社会史,文化史,印刷史を視野に入れた幅広く立体的な版画史,美術史研究の成果が得られるという,重要な意義があるものと-43-
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