鹿島美術研究 年報第13号
74/110

造的誤解」を含めた受容プロセスが具体的資料によって明らかにされるはずである。また,このことによって今日漸く充実しつつある美術史に於ける受容美学的研究にも具体的な事例を提供しうるものと考えている。もう一点は,クレーとシュルレアリスムの造形理論,造形的形象を比較し,画家同士のそれぞれの個人様式導入のプロセスを作品に即して検討,受容の問題を純造形的な側面から検証し,第一点によって明らかになる受容プロセスのメカニズムを補完し,画家同士の様式受容の問題を多角的な側面から観察するためのモデルケースを提供しうることである。⑬ 1920年代のフランスに於ける芸術の位相研究者:学習院大学,東京工業大学,明治学院大学1974年の『秩序への回帰』をめぐるサン=テティエンヌのコロック以来,1920年代の芸術に改めて大きな関心が寄せられるようになったのは1980年代後半以降のことである。クリストファー・グリーンはキュビスムのその後の展開を中心にこの時代を扱い,ケネス・シルヴァーは第一次大戦中及びその直後のフランスのイデオロギーとイメージの関係に注目して研究者の意識に重要な転換をもたらした。またナンシー・トロイは1895年以降のモダニズムと装飾芸術の関わりを同時代の社会的政治的経済的問題と絡めながら論じた研究の中で,ル・コルビジュエとアール・デコ展を通してこの時代を扱っている。またテート・ギャラリーでも1910年から1930年にかけての古典主義的傾向をまとめた展覧会が1990年に開かれている。個別の画家に関して言えばこの時期のピカソをめぐる展覧会に加え,1987年にはマチスの第一次ニース時代に焦点を当てた展覧会もアメリカで開催された。「アール・デコ」の時代であると同時に,「秩序への回帰」あるいは新たな古典主義の時代,「デタント」の時代等々と呼ばれたこの時期のフランス美術は明らかに様式進化論的な美術史の枠組みでは捉えられない複雑な様相をはらんでいる。そこには一方では戦中からの保守的なイデオロギーが色濃く反映され,他方では産業の発展にともなう合理主義や機能主義が席巻する。そして19世紀末以降大きな注目を浴びた装飾芸術の概念とそれをめぐる諸問題が最終的な展開を示すのは戦前に開催が決定されなが非常勤講師天野知香-48 -

元のページ  ../index.html#74

このブックを見る