鹿島美術研究 年報第13号
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悟亮ら実現が戦後にずれ込んだ1925年のアール・デコ展においてである。近年の20年代美術への関心は,美術史がモダニズムの呪縛を解かれることによって,これまで置き去りにしてきた時代にようやく取り組み始めたことを意味している。い換えれば,この時代に於ける芸術の位相と作品を考えることは,単に緒についたばかりの研究領域への貢献を意味するだけでなく,長く近代美術史を支配してきたモダニズムの意味とその表面的な相貌の陰でそれを支えた様々なイデオロギーを明らかにし,作品に対峙する新たな姿勢を模索する,具体的な契機ともなるはずである。⑭ 御用絵師狩野派の研究研究者:サントリー美術館主席学芸員榊原御用絵師狩野派の歴史上果した役割りを解明することをこの調査研究の目的とする。具体的には,以下の2点に絞る。1.幕府の絵事御用の実体の解明2.幕府の絵事御用全般にわたって指導する役職として,触頭ないしは頭取なるものがあったようだが,この役職の役割りやこの職についた画家たちの究明これら二点を明らかにすることによって,御用絵師狩野派の仕事の内容と,その組織のメカニズムに迫りたい。⑮ ゴヤの版画作品と18世紀後半のスペイン版画研究者:昭和女子大学文学部専任講師木下ゴヤの版画の独創性を強調するだけでなく,18世紀後半から19世紀前半の版画史の枠のなかで,版画の需要,制作の実態,発表の方法といった側面をも視野に入れて研究計画をたてることを念頭においている。その研究を実施するにあたって,第一にスペインの研究者の18世紀版画に対する視野がこれまでになく広がってきていることが指摘できる。国立版画院のフアン・カレーテ博士は,ゴヤの同時代の版画家40名余りを研究紹介し,アカデミーでの版画制作の技法とその実態を調査してきた。またマドリード大学のバレリアーノ・ボサール教授は国立図書館や市立美術館所蔵の民衆版画を渉猟し,興味深い作例を紹介し続けている。また画家の形成期についての研究では,-49

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