昨年の「気まぐれと創意」展開催と「イタリア画帖」が公開されたことと,義兄バイェウ兄弟や美術擁護者であったピグナテリ家についてなど,ゴヤ修業の地サラゴサの美術の状況が明らかになったことが注目される。申請者は,こうした新しい研究動向に加えて,メキシコ・シティの旧サン・カルロス美術アカデミー(1781年創設)での資料収集をおこなった。18世紀末,本国のアカデミズムや新古典主義がメキシコヘいかに導入されたかについて比較考察することで,例えば1792年にゴヤが提出した「アカデミーの教育理念にたいする意見書」の解釈にかかわる問題点も浮彫りにできるであろう。国立図書館,国立版画院,プラド美術館,市立美術館の各所蔵版画カタログが出版されたのはここ10年のことであるが,さらに現在エル・エスコリアル修道院所蔵の版画カタログが刊行中である。これにスペインに流入した外国版画の調査を加えれば,ゴヤを取り巻く同時代的な版画の状況がかなり把握できるだろう。ゴヤ研究の新しい広がりと版画に関する研究体制の整備を踏まえて,テーマやイメージ・ソースの追究のほかにも,版画教育,新しい技法の普及,外国版画の影響,版画の宣伝と販売について調査する必要性が今,痛切に感じられるのである。⑯ 江戸琳派における物語の絵画化・意匠化について研究者:学習院大学大学院人文科学研究科博士課程横山九実子本研究は,江戸琳派作品の中から物語を主題とするものを中心に捉えて「琳派における物語の絵画化・意匠化」の問題に取り組むものであり,その表現手法,造形特質,機能などについて,京琳派作品をはじめ広く同主題の文学・絵画・工芸・芸能表現と比較しながら考察することを目的としている。一つのテキスト(物語文)に対してどのような絵画を作って行くか,その過程や特徴を広い角度から比較検討することは,流派の特質,方向性,あるいは作家の造形上の個性を見極めるのに有効な方法であると考えたからである。共通の物語主題を軸に京琳派作品との比較を行うことは,「軽妙」「洒脱」という葉で表わされる江戸琳派絵画の特質を,個々の作品の表現要素に即して具体的に理解し,上方琳派と江戸琳派の美質の違いを解くことにつながろう。また,文学作品や同主題を扱った諸派の絵画をあわせ見ることによって,時代の好_ 50 -
元のページ ../index.html#76