振山史に限らず,中世の宗教美術史上の重要な問題を秘めていると,確信している。⑱ ロシア・アヴァンギャルドとバウハウスにおける美術教育の諸相研究者:大阪大学大学院文学研究科これまで,卒業論文および修士論文の執筆を通じて,ワシリー・カンディンスキーとアヴァンギャルド諸派(ロシア・アヴァンギャルド,バウハウス,デ・スティル)との関わりを,主にフォーマリズムの観点から考察してきた。だが,モダニズム芸術=自己言及的芸術という立場に立つフォーマリズムが,一時期批評言語として重要な役割を果たしたことは認めるとしても,モダニズム芸術をこうした観点から考察するだけでは,その一面しか明らかにできないであろう。したがって今回は,フォーマリストが描いた自律的モダニズム芸術像とは異なる様相を浮き彫りにするために,アヴァンギャルド芸術と美術教育の関係を取り上げたいと思う。ここでカンディンスキーを例にとれば,彼は生涯二度にわたって美術教育と深い関わりを持っている。まず,ロシアに帰国していた時期(1915-21年),彼はロシア・アヴァンギャルドの芸術家たちとともに,革命政権のもとで美術教育の革新に取り組んだ。また,1922年以降はバウハウスで教壇に立ち,色彩や形態の分析を行なう「予備コース」を受け持った。しかし,あくまで自已の内面を重視し,現実社会を芸術作品に反映させないという彼の自律的芸術観は,有用性の観点から芸術をテクノロジーと結びつけることで,芸術をアトリエから杜会へと還元しようとする構成主義者たちの批判にさらされた。今回の研究では,この構成主義対反構成主義の対立を軸に,ロシア・アヴァンギャルドとバウハウスにおける美術教育について考察したい。そのためには,従来の美術史的方法論(様式分析,図像学など)に加えて,ロシア革命や社会主義に関する政治的・社会的状況分析なども取り込んで,多角的に考察する必要があるだろう。また,ロシア・アヴァンギャルドとバウハウスの双方とつながりのあったデ・スティルにも目を向け,その観念的共同体思想とロシア・アヴァンギャルドやバウハウスのイデオロギーを比較するのも,モダニズム芸術の多面性を理解するのに役立つだろう。これらの作業によって,モダニズム=アヴァンギャルド芸術の「自律性」について再考する手だてを得られれば幸いである。後期課程(博士課程)清水佐保子52 -
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