鹿島美術研究 年報第13号
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⑲ 中世後期における六道絵と十王図に関する図像学的研究研究者:愛知教育大学教育学部助手鷹巣六道絵や十王図を中心とした,他界観を体系的に表現しようとした絵画作品の美術史的研究は,これまでのところ鎌倉時代を下限とする範囲での分析が中心であった。それは対象とする作例の美術的価値からみればなるほど妥当な範囲規定であるが,他界をいかに絵画化するかという問題は,鎌倉時代で終結することなく近世に至るまでさまざまな要素を取り込み多様な展開をみせているし,現存作例の数量も,圧倒的に恵まれているのは中世後期以降である。そこで本調査研究では,特に中世以降の作例に分析の重点を置く。広範な時代を対象とするため,作品の分析には主に図像学的手法を用いる。具体的な検討対象としては,前田氏本十王図・茨木市弥勒堂本十王図・和歌山市総持寺本十王図・出光美術館本六道絵などの南北朝時代から室町時代にかけての六道絵や十王図を取り上げ,図像・図像構成について関連テクストとの詳細な比較を試みる。関連テクストについても,従来注目されてきた『往生要集』や『地蔵菩薩発心因縁十王経』といった経典類にとどまらず,いまだ美術との関連が十分に検討されていない『十王讃歎紗』や『十王讃歎修善紗』などの二次的なテクストにも注目することにより,時代とともに変化する教理の流動性に対応する。以上の調査研究を通じ,しばしば「教理上の混乱」の産物として処理されてきた中世後期以降の六道関連美術の再評価がなされ,日本人の他界観を表現した絵画の全体像の連続性をもって美術史的に位置付ける端緒が開かれよう。⑳ 絵画作品における「田園」の主題について一ー和高節二の世界か研究者:島根県立国際短期大学専任講師八田典「田園」を主題とした和高節二の芸術世界についてはこれまでも考察を重ねてきたが,本研究では,美術史,思想史などのより広く深い歴史的流れの中にその特質を捉え直す。そして,その母胎である風土との関わりにも注目し,創造的活動の基盤としての広島県の地域的特性の解明に寄与する。さらに,描かれた「田園」に焦点を当てて考察を進めることにより,その表現方法や内在する思想などについての洋の東西による純-53 -

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