鹿島美術研究 年報第13号
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相違を把握し,美術史的に普遍性を持つ研究となることを目的とする。また,環境問題が重視される現代において,人と自然がともに在る「田園」の主題は,単に造形的なレベルにとどまらず,人々の心に多くを問いかけるものである。本研究は,描かれた「田園」の意味するものを多角的に捉えるとともに,創作と生活の場としての「田園」の特性と可能性を浮き彫りにしようとするものであり,今日的かつ根源的な追求となることを目指す。従来,描かれた「田園」についての論考は,ミレーやモネの場合に見られるように個々の作家あるいは作品に即した研究の中で行われており,より広い視野の中で現代的問題意識の下に「田園」の主題をつかみ直しその実相と意義を明らかにしようとする本研究は,独自性を持つアプローチであり,新たな成果が期待されるものである。⑪ カスパル・ダーフィト・フリードリヒの『雪の修道院墓地』ー一新しい教会の形式としての廃墟研究者:早稲田大学大学院文学研究科研究生長谷川美子廃墟は,当時,18世紀の「崇高」や「ピクチャレスク」,風景式庭園の流行などによって形成された風景画の趣味の中で好まれたモティーフであり,初期の作品が示すように,フリードリヒの廃墟の愛好も,このような伝統から出たものである。その場合,廃墟は,過去のものであり,「無常のメタファー」として,または現状への批判として,否定的な意味を伴うのが通例である。それに対して,『雪の修道院墓地』では,廃墟は,情緒的な趣味の域を越えて,画家にとって望ましいものと考えられる。本研究の目的は,『雪の修道院墓地』において,廃墟に肯定的・積極的な価値が与えられ,画家の希求する新しいプロテスタントの教会の再建,廃墟がすでに「新しい教会の形式」となることを明らかにすることにある。そのための重要な要因となるのが,画家による教会建築の構想と,その根底にあるプロテスタントの教会概念であり,それに時代背景としてのナショナリズムの高揚が加わる。とりわけ,1814年の解放戦争の勝利後,多くのモニュメントがつくられ,プロテスタントの教会は,民族の教会として,民族の国家という意味にもつながった。このような状況下で構想されたシュトラルズントの聖マリア教会の内部装飾,そしてそれ以前に野外での礼拝のために構想されたフィッテの礼拝堂は,画家にとってのプロテスタントの教会の望まれる在り方を示すもので-54-

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