鹿島美術研究 年報第13号
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⑭ 竹久夢二研究研究者:京都女子大学家政学部助教授竹久夢二の描く作品は早くから「夢二式」の名で呼ばれ,その名は『広辞苑』にも所収されるほど著名なものであるが,1960年代以前は日本近代美術史上においては傍流の芸術家としてしか位置づけられていなかった。今日では,高階秀爾氏,河北倫明氏,小倉忠夫氏らによる夢二研究により,日本近代を代表する画家の一人として認められていることは周知のとおりである。その後,様々な視点から夢二研究がすすめられてきたが,夢二の非常に幅広い芸術的活動を全体的に捉えて考察された研究はまだ十分になされていないように思われる。夢二の作品は「夢二式」の名に示されるように類型的なものとみなされがちであるが,実際は表現形式,描法,モティーフなど活動時期によって違いを示している。日本画を中心とした画風の変遷については既に考察(「夢二の画風」)を試みているが,この度の調査研究では,その変遷を全体的な活動の中で捉え直すことによって,夢二芸術の特色を考察していくことが大きな目的である。その考察にあたっては,① 未年記の肉筆画の編年整理について② 多彩な芸術活動を支えた夢二の芸術思想について③ 夢二芸術と大衆との結びつき及び日本の近代化が進展した時代との関係④ 1960年代以前の夢二評価に関する問題についてなどといった諸問題を特に重点的に取り上げ,夢二芸術の全容を鮮明にしていきたいと考えている。また本研究は,今後の夢二研究に対しては新資料だけでなく新たな知見を示すことができ,さらには夢二作品,資料のデータ・ベース化の基礎的資料を用意できる点において意義あるものと考えている。また夢二研究は,日本近代美術史,特に大正時代の美術を考える上でも寄与するものがあると考えている。⑮ 14-15世紀のプラート(トスカナ)における美術作品の受容と聖遺物崇拝に関する研究研究者:お茶の水女子大学人間文化研究科修士課程吉川由紀子イタリア・ルネサンス美術の研究がフィレンツェの美術に偏っていたのは,フィレ堀修-57-

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