つ。究がいまだかつて行われたことがなく,また関連する中国文化の影響に関してもこうした観点からの研究が試みられたことがないからである。この新しい観点から行われる研究が,日本の研究者はもちろんのこと西欧の研究者にも注目されるものであることは疑い得ない。また,日本の中世庭園において世界のさまざまな文化に同様に指摘される「中世主義」とでも名付けるべき要素が抽出されるならば,それは中世美術における「メタとにもなり,西洋と東洋双方の文化の学術研究に対して等しく高い意義を有するものとなろう。日本においては,中世庭園が中国を含む世界の他の文化に比してかなり豊かに保存されており,日本中世庭園は研究対象としてきわめて高い価値を有するものである。日本の中世美術に関してとくに興味深い点は,次の三つの異なる性質の資料を用いることによって,そのダイナミクスが他の文化の場合よりかなり明瞭に観察可能なことである。その三つの資料とは,第一に現在まで保存されている中世庭園およびその旧跡であり,第二に文学的主題としての庭園の姿であり,第三に絵巻物や写本挿絵などの画像資料である。ここにとられる方法論は,主として比較文学の分野において用いられてきた理論をその理論的基礎としている。文学批評や比較文学の分野においては,文学において用いられるアレゴリーやアナロジー,また換喩や隠喩などのさまざまなレトリックの分析が中心的問題とされていることは周知の事実である。この点においては,とくにC.s.パースの提唱した記号学が利用され,またU.エーコの思想,その理論的著作と同時に『薔薇の名前』のような小説の形態をとるものもきわめて利用価値が高いといえよ以上のような方法において研究が進められたならば,その結果は美術史のみならずさまざまな文化研究の分野において,既存の方法論によっては得ることの不可能であったより明晰な研究方法のパターンを確立することを可能とするであろう。とくに本調査研究においてとられる記号学的なアプローチは,今後の中世比較文化研究におけるガイドラインとなるべき成果が期待されるものである。の在りようを考察する上できわめて重要な手がかりを提供するこ-60 -
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