鹿島美術研究 年報第13号
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2.構想理由申請者は近年,金色堂須弥壇の工芸意匠や制作技法に関する基礎的データを明治期の模写図を援用して収集することにつとめ,各須弥壇の特色を螺細や装飾金具を中心に考察してきた(「中尊寺金色堂須弥壇の現状と明治の模写図」)。本研究は上記調査研究の過程で着想を得たものである。すなわち金色堂所用の伝を有する堂内荘厳具(華覧,幡頭,礼盤,案,燈台)には作域を異にする作例が三組ずつ現存しているが,その工芸意匠や制作技法上の特色を同堂の三つの須弥壇と精細に比較検討することにより,各須弥壇に本来付属していた荘厳具を明確にし,さらに各須弥壇の造営経緯をとらえようとする構想のもとになされるものである。⑳ 浄土教系肖像彫刻の基礎的研究研究者:神奈川県立歴史博物館学芸部主任学芸員薄井和男本研究は,浄土教系の中世肖像彫刻につき像の形姿・形式(立像・歩行像・坐像・椅像,着衣形式等),造像構造などの形質データを多く収集して,また,像主の出自や重要度,像の安置の仕方など御影としての肖像彫刻の性格を重点に置いて,最終的には各宗派別の特色,進んで浄土教系肖像の特色を実体化することを目的とする。これにより,鎌倉期より室町期にいたる浄土教系肖像彫刻の作風変化を指標的にとらえることも可能かと思われる。例えば,時宗の肖像彫刻でははじめ宗祖一遍の遊行像が造像されついで歴代坐像,そして頂相に類似した坐像,{奇像と様々な形式が展開し,また安置法も群像,二像併坐が発生する。これは,時宗の教団発展,祖師崇拝の進展と深く関わっている様相がある。本研究は私がこれまで時宗の肖像で知りえた,こうした様相,傾向を浄土教系という仏教美術上のひとつのジャンルに発展させて,肖像彫刻の意義,価値をとらえてみたい。-62 -

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