た,資料的にも貴重な内容のものが多い。明時代の中国書法は法帖を学書の対象とする風潮にあったために,洗練された文人趣味に基づいて精刻された集帖には,当時の文人士大夫たちが収蔵し得た,あるいは目賭し得た名品が収められており,集帖の所収内容は当時における名蹟の流伝状況や,取捨基準などを伝えるものでもある。従来,伝来の確かな集帖の所在は明らかにされず,まれに単独で一集帖が公刊される以外には,帖目のみが活字として報告されるに過ぎない状況にあった。昨今は中国でも収蔵品情報の公開が盛んとなり,集帖の一部が図版としても公開され始めているが,体系的な調査にはなお程遠い現状にある。このような状況に鑑み,このたび日中各機関の所蔵する集帖を比較調査し,先ず初拓・旧拓と謳われる集帖を図版として蓄積し,集帖そのものをより客観的に評価できるようにする。次いで,各集帖の所収作品を整理することによって,当時における名品の収集状況や,取捨基準等を探り,さらには明時代の書の時代性に関する考察を試みる。⑮ 小林清親の洋風表現について研究者:財団法人太田記念美術館学芸主任加藤陽介小林清親研究の底本とされる吉田漱著『開化期の絵師小林清親』の出版より30年が経過しており,伝記の修正,加筆,ひいては異なった視点からの評価を行う時期にきていると思われる。その一つは,印象派との関連,位置付けによるものがある。日本における印象派の紹介は白樺派の活動よりおこるとされているが,これに先だつ詩人や芸術家の集団,「パンの会」において,北原白秋,木下杢太郎らにより,清親の作品がもてはやされ評価を受ける事実を鑑みると,清親に印象派の萌芽を感じていたのではないかと考えられるのである。点描を思わせる表現を駆使した作品や季節・天候はもちろんのこと,江戸の浮世絵師歌川広重が成し得なかった日時までも表現する清親の作品には,浮世絵からインスピレーションをを受けた印象派が逆輸入されるダイナミズムが秘められていると考えられる。“最後の浮世絵師”と冠されてきた清親の評価を多少なりとも修正できればと考えている。-65
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