鹿島美術研究 年報第13号
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⑯ イタリア近代美術のパプリック・コレクション研究者:帥西宮市大谷記念美術館学芸員中井康之日本国内における近年の美術館施設の増加は,その収集作品の内容,運営形態をそれぞれ検討した場合,単純に評価することができない事例が少なくない。美術館が形成された歴史的経緯の異なる西欧諸国との短絡な比較は避けるべきであるが,イタリアの美術館は,近代美術の収集と公開という視点で捉えた場合,その遅延性において日本との類似点を見いだすこともできる。もちろんイタリアにおいては,膨大な歴史的資産の維持と公開を中心としなければならない,という点で大きな違いがあるものの,近現代美術の体系的な収集と公開が,他の欧米諸国のように成功しているとはえないだろう。また,イタリアと日本は近代美術の歴史の中では共に周縁に位置し,さらに,近代美術と自国の伝統美術が乖離している点に同様の問題が存在している。今回の調査目的は,これまで私が研究対象としてきた,19世紀イタリアにおける近代絵画形成初期の問題を,そのパトロンやコレクターの存在にまで視野を広げ,上述したような観点を踏まえて,その様態を現在の近代絵画コレクションによって考察しようとするものである。例えば,フィレンツェの近代美術ギャラリーに所蔵されているマッキア派コレクションの基本となったディエゴ・マルテッリのコレクションの傾向,あるいは,現時点での展示方法等を調査することによって,イタリアにおける近代絵画の諸様相の発生要因,あるいは受容度の再検討を試みる。ひいては,日本の近代美術の形式要因と,その作品公開の方法を鑑みる手掛りとなることを視点に入れる。⑰ 画中樹木の研究研究者:青山学院大学大学院博士後期課程工藤健一数々の絵巻物等をながめるとき,そこには様々な場面に実に多種多様な樹木が描かれていることに気付かされる。むしろ全く樹木が描かれないという絵巻は無いといってもいいであろう。そして,それらの木々の美しい描写は絵巻物の大きな魅力のひとつとなっているといえる。このことは,ひとり絵巻物のみに限ったことでは無く,広<屏風絵,障壁画といった日本絵画全体についても同様であろう。これまで,これらの画中の樹木については四季の景趣を表すもの,あるいは所々の名所に付随してその66 -

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