名所の景趣を表現する「景物」のひとつとして捉えられてきた。しかし,様々な画中の樹木を見るとき,そこにはより多様な意味が込められているのではないかという思いが浮かんでくるのである。そこで,本研究においてはこれらの画中の樹木の持つ象徴的な意味の解明を試みてみたい。これによって絵巻の読み解きについての新たな方法を呈示することが出来ると考えられる。⑱ 春秋・戦国時代における桶について研究者:日本女子大学人間社会学部助教授中国史の中で「絵画を重んじ,彫刻を軽んじる」という社会的傾向が存続してきた。これにより,絵画理論は完璧に近いものである一方,彫刻理論はほぼ空白の状況にある。画家は常に優位の座を占め,彫刻家は依然劣位にとどまっている。中国美術史がヨーロッパ美術史のあり方と全く異なる現象をまねいた原因としては,桶の誕生が少なからず関与しているものと考えられ,早期桶の美術的研究を行うことで,この「重画軽塑」の根本的要因が究明できるものと思われる。これまで,中国美術史分野において,桶に関する専門著作は少なく,主に参考対象として借用されるに過ぎず,未だ,その起源,変遷について追究がなされない状況に対し,本研究がある程度,啓発を与えるであろうことを期待し,さらに学術界の桶研究が活発化することを願うしだいである。構想理由としては,現在,学術界において,早期桶に対する解釈は往々にして矛盾した状態にある。その最大の原因は伝統的認識に依拠するもので,それにより,実際の桶の状況に則した合理的説明が不可能となっている。これを受け,研究者は今まで定説とされてきた論点とは異なる角度から研究を行うことで,孔子の桶に対する見解が桶誕生に関するものではないことを明白にする(1995年3月『日本女子大学紀要・人間社会学部』第5号にて,研究者は,この件に関し,すでに論じているが,今後,さらに掘り下げた研究を進めていく所存である)。また,桶のカテゴリーを拡大させることで,いくつかの学術的懸案の解決を可能なものにしたい。干保田-67-
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