あるが,作品の状態についての記録の集積に優れている。現在の保存環境と過去の環境,又,過去,現在の状態を比較できるだけのデーターがあると思われる。●現在コンサヴェイターの養成制度が整いつつあるのは,世界的な動向であるが,そこには2つの傾向がある。1つは伝統的な修復技術の伝承を優先させるヨーロッパ系と,「テクノロジーを重視する」といわれるアメリカ系の傾向の違いである。ヨーロッパは言うまでもなく,作品収集の長い伝統があり,すでに修復を必要とする作品が養成される修復家がこなせる修復量より常に多いのが現状である。これに比べると新しい国では守らなければならない作品はまだしも少ない。「いかに修復するか」より,「いかに修復に至らないようにするか」の研究が,ヨーロッパに較べ重要視されており,その点日本の近代美術館に条件が近いといえる。0アメリカの保存研究の中心の1つにニューヨーク大学のコンサーヴェーションセンターがあるが,かなりの教授がメトロポリタン美術館の現役のコンサヴェーターである。⑭ 坐像系阿弥陀来迎図の図様と様式に関する研究研究者:奈良市教育委員会文化財課石田わが国の仏画の中でもとりわけ多様な変容を遂げた阿弥陀来迎図に関して,発生期の図相を明らかにすることはもっとも重要な課題であり,そのためには個々の作例の図様と様式を分析し,その展開を解明する作業をさらに進めていく必要がある。わけても注目すべきは坐像形式の阿弥陀来迎図に発生期以来の古様な図様と様式を継承している作品がみられることであり,それらの古様な要素を抽出して位置づけることによって来迎図の系譜をより詳細に明かすことができる。加えて,その展開は,画面の構図形式や聰像構成,阿弥陀如来の聰容といった点のみならず,背後の聖衆や景物などのモチーフもまたひとつの絵画的伝統を形成していることに着目して考察することが求められる。阿弥陀来迎図の図様は経軌による規定が少なく独自の着想をもりこんだ表現が可能であることから,仏画の中でも制作意図と作者の創造性がことに強く反映されている。したがって,絵師がそうしたモチーフを先行作例からどのように引用し,組み合わせ,また改変して独自性を加えようとしたかを探ることは,阿弥陀来迎図の展開のみならず,その時代の仏画制作の動向を窺い知るうえにも有効である。-72 -淳
元のページ ../index.html#98