鹿島美術研究 年報第14号
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また,江戸後期から昭和初期にかけて出版された煎茶会図譜には当時の諸道具の取り合わせについて紹介されているので,作品のデータを蓄梢することによって,使用された諸道具の実物作品による取り合わせを推定することができると考えた。さらに,近年神戸の個人宅で青木木米作の煎茶器を多く見る機会があり,木米の中国趣味の煎茶器が明末清初の多様な陶磁器の技法や形態を手本としながら,独自の変容を加えた,単なる本歌の写物ではないことを知ることができた。これは,池大雅以降の文人画の諸相とも通じる側面をもち,煎茶文化における中国の美術・文化の受容の変遷を煎茶道具の面からも考察することができると考えた。⑱ 日本における古代地中海圏(特にギリシャ,エトルリア,ローマ)の美術品コレクションの研究研究者:東京大学大学院人文社会系研究科過去数十年(特にここ数年)の間に,日本の博物館/美術館ないしは個人のコレクションで増加の一途をたどる古代地中海圏の美術品や手工芸品を一つのまとまったカタログの形で目録化することである。研究者の専門上,エトルリアや古代イタリアの作品は,特に詳しい考察の対象とされる。後日この研究成果を図版入りで公表することを通して,“日本に収蔵されている古代地中海美術の例証”は,ここにある作品を必ずしも実際に鑑賞出来るとは限らない,更に多くの人々,それも特に欧米の専門研究者達の目にもふれることとなり,学術的な意義を深めると考える。⑲ 独立以降のアジアの美術家たち研究者:沖縄県観光文化局文化振興課主査前田比呂也沖縄は,日本の中でやや特殊な状況にあり(第2次大戦以降の現代という時代),沖縄という場にある者は杜会的現実と関わる時,常に「沖縄とは何か」を自問自答してきた。美術に限らず戦後沖縄の文化運動もまた同様に自らのアイデンティティーを問い続けなければならず,国際性(普遍性)と地域性(固有性)の間でおさまりのよい場所教授シュテファン・シュタイングレーバー-74-

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