非常に適した題材である。絵画が物語のあらすじだけでなく,舞台設定や時間の経過,信仰や風俗など直接物語とは関係ない事がらまで,種々雑多で膨大な情報源であるのに対し,芸能は型や衣装,舞台美術などによってイメージに託される象徴性を強調し,物語を集約するものである。ともに物語の視覚化という点で極めて近い関係にありながら,相反する特性をもつ絵画と芸能のかかわりを見ていくことで,主題の変化や物語図の表現の変容なども把握でき,物語図の特性と歴史的展開を概観できると思われる。その成果を,絵画の時代様式や画面構成も追いながら,曽我物語図の主題や図様の変化を見せる絵画作品の展示に加え,文学資料や芸能の実演など,美術・文学・芸能を同時に享受できるような展覧会の企画へ結びつけたい。⑬ 近世初期風俗画における図様継承の研究~佐又兵衛の画風解体と伝承イメージの形成を中心として一一研究者:東京国立博物館学芸部美術課絵画室員田沢裕賀近世初期の風俗画の分野では,作品の多くが確実な制作期・作者を明らかにしない。そのため,狩野派などの一部流派の作品をのぞいては,「洛中洛外図」「邸内遊楽図」「歌舞伎図」といった主題を中心とした分野ごとに枠を設けての研究がおこなわれてきた。一方で,近世初期の風俗画には驚くほど多くの作品に図様を共通させたモチーフが用いられていることに気がつく。それらは多くの場合には,主題を同じくした作品の部分として用いられており,作風上も共通したものが多いが,主題の上から,あるいは作風の上から異なった作品間に共通の図様を見いだすこともしばしばある。これらの図様は単に流派内あるいはエ房内で粉本として利用されたばかりでなく,広く流派を越えての粉本の蓄積が行われていたことを示していると考えられる。あるいはこの時代に流派様式が大きく変化したことを反映しているとも考えられる。図様継承を明らかにすることは町絵師と呼ばれる流派様式を明確にしがたい作家群の作品を系列化するうえで,大きな手がかりになると考えられる。特に岩佐又兵衛の画風継承を推測させる作品では,画風が一定の様式におさまることなく,主題の枠組を越えて共通の図様が利用されている場合が多い。本研究では主題を越えた絵画作品の共通図様を調査し,又兵衛風をもった風俗画作品の多様性と共通性を明らかにする-76-
元のページ ../index.html#102