② 「初期ネーデルラント絵画における結婚の図像_メムリンクのく聖カタリーナの神秘の結婚〉一」発表者:近畿大学専任講師峙川順子画はまた<聖カタリーナの神秘の結婚〉とも呼びならわされてきている。この祭垣画の背景と両炭では,病院の守護聖人であった二人のヨハネに関わる物語が繰り広げられ,中央画面が,付属教会の守詭聖人と考えられる聖母マリアを中心に構想されているのは明らかである。そのため近年では,<聖カタリーナの神秘の結婚〉という呼び名が誤ったものであり,カタリーナはバルバラと対をなしながら聖母子を取り巻く一聖女に過ぎないとされる場合が多い。これに対して本発表では,この祭壇画でく聖カタリーナの神秘の結婚〉に与えられた重要な役割を指摘し,メムリンクの創意が,「指輪の授与による神秘の結婚の表現」という比較的新しいカタリーナの図像の展開に与えた意義を考察したい。<聖カタリーナの神秘の結婚〉が重要な役割を担うというのは次のような構成上の理由からである。すなわち,ここで左側の洗礼者ヨハネは,幼児キリストその人ではなく,幼児キリストがカタリーナに授与する婚約の指輪を指し示すことで,現世での不義の結婚と天上での神秘の結婚とを鮮明に対比させている。洗礼者ヨハネが斬首されたのは,ヘロデ・アグリッパとヘロデアの不倫を非難したためだったのである。また,カタリーナの差しだす手の方向に,幼児キリストを抱く画面中央の聖母と右側に立つ福音書記者ヨハネとがいる。いずれも中世末の図像の展開の中で,神の花嫁としての側面がカタリーナと同じく強調されている聖人である。福音書記者はここで,死にも打ち勝つ力をもち,困難を越えて建設される,黙示録の神の国のヴィジョンを視る者1494)に注文が出され,1479年までに完成または設は,銘の記述や同病院付属教会の後陣拡張事業の記録などから判断して,同教会の主祭壇のために,1473年から1474年にかけてハンス・メムリンク(1430頃一置されたと考えられている。しかしながら,中央画に描かれた,幼児キリストから指輪を授かる聖カタリーナの姿が非常に印象的であるために,この祭盟ブルッヘの聖ヨハネ病院にある<聖ヨハネ祭壇画〉-20 _
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